7~8 年前から機械工学科の全教員で今後の機械工学のあり方を議論してきた.機械工学は医学や生物学,人工知能,ヒューマノイドロボット,ひいては環境・社会科学分野にまで応用分野が拡大,研究領域がきわめて多岐にわたってきた.その結果,同じ学科にさまざまな研究・教育理念が混在し始めた.そこで長い議論の末,自らの判断でそれぞれの研究・教育理念に基づき,本来の機械工学を継承する「機械科学・航空学科(機航)」(学生定員150 名)と,伝統的機械工学にこだわらず,研究領域を一層拡大させる「総合機械工学科(総機)」(学生定員140 名)に再編することを教員全員で決意した.
第3者が見れば,当然両方が必要であり,分割する必要性は無いと考えるであろう.しかし,両者の研究方針はともかく,教育方針で大きな差異が生じ,このままでは科目設定や人事が成立しないところまで来てしまった.総機はPBL 教育を理想としている.これはプロジェクト(P)をベース(B)に学ぶ(L)方法で,与えられた課題・プロジェクトに,興味を持たせながら学生に学ばせる方式である.米国の大学で多く採用されていると聞く.
一方,機航はまず数学・物理・力学の基礎をしっかり学ばせ,その後に課題に挑戦させる伝統的な教育方針に基づいている.機航では卒論・修論の無い米国の学部教育では,PBL が適するだろうが日本ではこれが卒修論で既に機能していると見ている.
その優劣は別として,両方針は対極にあり教育面における教員の共存は大変困難になってきた.前向きに考えれば,同じキャンパス内に二つの機械系学科の切磋琢磨も期待するところ大である.
私の属する機械科学・航空学科の「機械科学」とは自然の摂理に基づいた科学(Science)的思考を大切にするとの考えを表し,同時にその応用学術分野である機械工学(MechanicalEngineering)を核に据え,物理・数学を基盤とした材料力学・流体力学・熱力学およびメカニックス(力学)などの機械系基幹学術分野を教育研究することを本学科の基本理念とした.
あえて「航空」を学科名に冠したのは,高校生受けを狙った面も多少あるが,テーブルクロスを中央で引き上げるとクロス全体が浮き上がるように,機械系の学術を極限まで深化させた技術が航空・宇宙と考えたからである.その研ぎ澄まされた学術から誘発される技術連鎖・波及効果を最大限に生かすことが目標である.
さあ,両機械工学科の競争により,どちらが生き残るか?それとも両学科ともに発展するか?当事者である私自身も大いに楽しみにしている.