早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
1987 年に発表された技術予測に,ガンの転移を防ぐ有効な手段が開発される(2002 年),家庭や病院などでほとんどの雑用をこなす奉仕ロボットが実用化される(2000 年),音声入出力によるポータブル型自動通役器が商品化される(2003 年),運転操作を学習し,安全快適な走行を可能とする自動車が開発される(2002 年),ジャンボジェット旅客機なみの乗客を運ぶ超音速旅客機が実用化される(2005 年),とある.
また,イノベーション25 戦略会議の報告では,2025 年度までに一家に一台家庭ロボット(家事からの解放),ヘッドホンであらゆる国の人とのコミュニケーション,地震発生後15 秒緊急対応により犠牲者が激減,走れば走るほど空気を綺麗にする自動車(人工光合成でCO2 を燃料に使う),東京-大阪間50 分,東京-成田15 分とあるが,ほとんど実現しそうにもない.予測を見誤る共通点は,人間の技術解決能力を過信,革新技術への惚れこみ,経済性の無視,将来の社会・経済・技術の予測困難さにある.
ロータリーエンジンは私が学部4 年生(1966 年)の東洋工業(マツダ)工場見学の際,先輩が熱くロータリーエンジンの夢を語り,その結果,多くの学生が東洋工業を目指した.リニアモータは1962 年に,国鉄の鉄道技術研究所が,リニアモータの研究を開始した.私は1966 年,国鉄・鉄道研究所で2 人乗りのリニアを見て鉄研にあこがれた.その後,1972 年にML100 浮上走行成功(60km)にはじまり,1997 年からMLX01 により,時速550km/hを達成した.
ここで注意しなければいけないのは,往々にして革新技術は既存技術の進歩に追い抜かれることがあることだ.「革新技術」対「既存技術の進歩」を冷静に事前吟味しなければならない.
半導体の発見と実用化は,数少ない革新技術の成功例である.真空管は1906 年に発明された.しかし,1949 年W・ショックレ―らは真空管に代わるトランジスタを発明した.1957 年にTI 社のJ・キルビーらによってIC を発明,トランジスタ⇒IC⇒LSI 大規模集積回路と進展するとともに,各段階で多くの製品や技術を生み出した.すなわち,トランジスタ技術は途中下車可能な開発技術であった.
革新技術が失敗する共通点を以下に列挙してみよう.①核たる要素技術が未実用化・未体験,例えばリニア新幹線の超伝導技術である.在来新幹線はこの逆の成功例であり,推進者の島英雄のモットーは「既存技術を集積して新幹線を作れ!」であった.②開発実用化まで膨大な時間を要する.当初の開発目標・環境が時間とともに激変し,現在および将来の状況に合わなくなってしまう.リニア新幹線が好例である.③効果に対して巨大な開発・実用化投資が必要.リニア新幹線の開発の成果は,最終目標に達するまで,途中での果実が出ない.その間の膨大な研究・開発・実用化のための投資は計り知れない.④既存技術の進化・発展を見誤ること.ロータリーエンジンの開発途上で,既存技術のレシプ
ロエンジンの燃費.・環境対策が劇的に向上することを見誤った.その結果,ロータリーエンジンがレシプロに対して優位性を見せられなくなった.リニアも,航空機や在来新幹線の技術的経済的発展を予測できていたら,もう少し違う姿になっていたであろう.