早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
大学の父母会(ペアレンツデー)をご存じであろうか? 学力低下が話題になり始めた2000 年頃から各大学で父母との交流会が催されるようになった.留年の学生に対して「うちの息子に限ってそんなことはない」とか「なぜもっと早く知らせてくれなかったのか」と大学に訴えが起こされるご時世になったのである.
早大も例外ではなく理工系は2004 年頃から父母会が開始された.当学科でも多くの教員が「大学で父母会はいかがなものか?」と斜めに構えていた.しかし参加表明する学科が多くなるにつれ,ついに重い腰をあげ2009 年度から始めることにした.
初回にもかかわらず学部3年生の半数に当たるご両親100 名強が集まるほど盛況であった.学部長・主任挨拶と学科の近況紹介そしてクラス担任の教員から以下の内容で話を進めた.父母の関心度の高い成績や単位に取得に関する説明する段階になると,前のめりになりながらメモをとり,真剣に聞きはじめた.
3年次の研究室配属,4 年次の卒論着手条件,そのときまで取得しておくべき単位数,不足の場合4 年になって卒論が着手できないだけでなく3 年修了時で早くも留年決定もありえること,さらに大学院に進学するための成績要件や他大学受験状況などデータを示しながら詳細に説明する.当方としても大学に無用な訴えが来ないようにとの防御策でもある.
「就職ではほとんどの学生がエクセレントカンパニーや最終消費財メーカーに目が向きがちであるが,資本財・中間財を製造している企業にも広く目を向けるように指導している」と父母に解説する.なぜなら中間財を製造している玄人好みのB to Bの会社には,学生はもちろんご両親ですら知らないケースが多く,はじめから選択の対象から漏れていることが多い.
実験室・研究室見学により,学生が大きな機械を操作し,材料を加工する状況や,研究実験風景を見てもらう. 個別面談で父母から成績,就職の相談を教員が受けつける.特に就職では母親から「有名企業で,かつ子供を地元に置きたい」との要望が強い.この面談では父親の存在感は一般的に低い.母親の学業の考え方・就職希望は学生とほぼ同じ発想であり,まずご両親に学科の考えを理解して頂くのが学生の考え方を変える近道であることを父母会で実感した点が大きな収穫であった.「将を射とすればまず馬を射よ」のことわざ通り,父母会は今の大学で必要不可欠である.これが今回の私なりの結論である.