コンサルタントに資格は必要なのか、というのが本日の主題です。結論的に言えばもちろん資格があったほうがよいともいえるし、場合によっては資格はあえてないほうが自由にできるという面もあります。ただ資格を得る過程で頭の中の雑然としていた知識の整理が出来ること、さらなる情報収集用のアンテナ効果の面は大いにあるようです。ここではそのへんを筆者の経験上の話として整理してみます。
コンサルタントという仕事は、これまでにも説明しているように「顧客と協議」しながら顧客が満足すれば「価値が生じる」ので、開業するとき必要な資格は特にいらないのが正解です。しかし客から見てこいつは何者なのかという疑問にまずは答えることも必要な場合もあります。また企業に属していたサラリーマンがコンサルとして起業した時に、名刺の肩書が何にもないのはさみしいと感じる人も多いと思います。
一般的にはいわゆる資格は数多く、一説には日本でとれる資格の数は3000以上、そのうち国家資格といわれるだけでも1200程度?といわれています。その中で資格として技術者にとって割となじみがあるのは下記にグループ分けしていきますが、専門家としての証明書としての学位や国家資格、さらに業界団体などの資格、その他などなどを整理したものがあるかと思います。
一般的に言えるのは各種資格は、あくまでもその分野の入門証のようなものでしょう。したがっていわゆる本格的な専門性の知識をコンサルとして提供するときは、実務レベルを超えたものが必要になる場合が多く、資格は必要ではないといえます。したがって自分で専門家として自信があるときは、そのような入門証の資格をしめすのではなく、自分で堂々と「〇〇領域分野の▽▽専門家」「〇▽でのマーケティング専門家」「顧客対応、プロジェクトメネジメントのコンサルタント」などと自分で記入することも一つの手です。
もちろん公式の資格は無いよりは、あったほうがとっかかりのコミュニケーションのスタートができやすいというメリットがあります。一応の整理のために以下にその分類と役割などを順不同で示してみましょう。
・専門家としての証明書、大学の卒業・終了証明のような資格:学位、卒業証書
自分はちゃんと大学などで勉強し〇〇の専門家ですという証(あかし)がこれです。一般的には大学の卒業証書から始まって、大学院などの単位取得証明、修士号、博士号という学位などがこれにあたります。現実的な効果としては、コンサルタントとして相手に対する説明を省くことができる便利で邪魔にはならないのですが、大企業やベンチャー企業などにはそれと同等やさらにそれ以上の学位取得者、さらにダブル・トリプルメジャーの方も数多くいらっしゃいます。そのため、それらは希少価値としては作用せず、すぐにビジネスにはつながるとはなかなか言えないものです。
その中で例えば博士号は、専門家の証明書としては一級といえますが、昔は「末は博士か大臣か」という言葉に代表されていたように到達点との位置づけでした。しかし今では博士号も到達点ではなく入門資格のような形になってきてます。実態は工学博士、理学博士、薬学博士、農学博士、医学博士などの標記でだけなく、博士(〇〇)などと多様化してきています。逆にこれらの学位があることで、狭い専門家として見られるという欠点もある場合があります。余談ですが名刺などの標記には一般的には標記される資格として、単なるDr. と記載されると医者と勘違いされることもあるので米国では専門内容いかんにかかわらずPh.D とも英文では標記されます。資格大好きな人が多いドイツなどでは、Dr.Ing.(工学博士)と表示され、学位を2つもつ人はちゃんと?Dr. Dr, 〇〇とか複数書くことも良くあります。
修士号としてはこちらも色々とありますが、日本でも米国などでも一緒ですが〇〇修士と名刺上などで表記することは少ないといえます。例外がMBA(Master degree of Business Administration)の修士号で、海外でも同様でこの学位号はどこで獲得したかということが問われることも多いですが、いまでもそれなりの価値をもっているといえます。
・国家的に認められている、国家資格各種とは(基本は専門学校・大学卒業+国家試験)
国家的に認められている資格は世界的な共通性もあり、それらは国際的な交渉事などでそれぞれの国の資格は重要です。ライセンスや契約書の作成などに関して交渉に資格が必要なこともあり、昔は「士業」とも呼ばれ、結構厚い国家保護のもと人数制限的なこともあったりして、資格をとるだけである程度の収入が確保されている面もありました。たとえば弁理士、税理士、会計士、弁護士、看護師、薬剤師、一級建築士、技術士などなどです。
しかし現在は激しい国際競争のなかで、自国内だけの問題ではなく、いわゆる実務家のスタート点での資格という形になっています。いわゆる目的から手段という、ある意味では本来の趣旨の実務家という立場の資格にもどっているともいえます。したがって、コンサルタントとして活動とはちょっと意味合いが異なりますが、資格をもっているので、いわゆる実務も熟知しているぞということでは意味があるかと思います。一方では、これらの資格の枠組みでの活動を行おうと思うときには、それぞれの団体が設けている枠組みや規則が、かえって制限(費用の上限)となる場合もあります。いわゆる規定の時間レートや各種の活動範囲の設定がある場合です。これらはいわゆるその業界における実務者での初心者的な人々にはプラスに働きますが、いわゆる実務+α型のコンサルタントとしての活動を行う場合や熟練・ベテラン者などにとっては収入制限や融合分野での活動制限などにもつながることもあるようです。
・一般の各種業界団体などが発行するなんらかの専門性ある資格
次に、国などが直接専門性の資格を認可するものではありませんが、各種専門団体の資格には多くの種類があります。これらの多くは、まずはそれぞれの業界団体にアプローチして検定資格に合格する必要があり団体の会員になったりすることがその資格の有効性などの条件になったりします。
これらの資格は、いわゆるコンサルタントにそれらが必要かというと、そういうわけではありません。とはいえ、お客様を探すときに、団体として、PRしてくれたりするので、便利な場合があります。とくに最初の事務所オープン、開業時には便利なことも多く、スタートのときに活用可能です。また自らの向学心として一応の広がりを勉強するネタとして大いに取得することも前向きな取り組みといえます。
技術者にとって関係が深い資格としては、ある意味のお墨付きのある資格として技術士・情報処理技術者、知財管理者、高圧技術管理者、中小企業診断士、PE、プロジェクトマネジメント(PM)などがそれにあたります。しかし、こちらも、本物の個人コンサルとして自立するときには、いわゆる専門家集団としての団体の一律料金、規約料金などに縛られてしまって、自由な料金設定ができないなどのデメリットもあることに要注意です。いずれにしてもどのような専門性やスキルをベースに、どのようなコンサル業をおこないたいかで個人の知的興味分野で戦略的に考えていけばよいでしょう。
・余談:筆者が確保した、ビジネス上意味がない(金にならない)資格にはほんとに意味がないのか?
筆者の持つ資格としては、大学の卒業証書、その延長の工学修士、さらに企業の研究所の時に獲得できた工学博士がいわゆる資格としてはすべてです。ではその他には、と聞かれるとコンサルになってからさらなる老後や余暇を豊かにしたくて獲得したのが下記に挙げた民間資格です。それらの多くはビジネスにはほとんど役立たないものですが、いずれも趣味の世界として頭の中の雑然とした(混沌とした)蘊蓄や知識を整理したくて獲得したものです。
筆者の趣味でもある旅や温泉巡りにからめて温泉関係では「温泉ソムリエ」「温泉入浴指導員」があります。旅行が好きなところから「世界遺産検定」(とりあえず2級と3級)をゲットし、また大好きな日本酒とビールでは「日本酒利き酒師」、「ビールソムリエ」を確保しました。また日本の花火の(制作)技術的レベルの凄さに関心しきりだったので、もうすこし中身を知りたいと、大曲の「花火鑑賞士」をゲットしました。また、出版社から頼まれて故郷や神社めぐりの紹介本を執筆する都合上、常識を知るために「神社検定」(とりあえず3級)なども確保しています。
いずれも試験前には学生時代を思い出すぐらいの詰め込み勉強を最低一晩は行いましたが、結果として頭の中が大変整理されただけでなく、下手な蘊蓄は影を潜めました。そのことについても触れてみましょう。まずは資格をとると何かがおこるのではなく、資格をとるためには、ある程度その対象を俯瞰的、本質的、体系的に理解する必要が生じます。そうすると、雑然と、断片的に入っていた各種情報が統一的に整理されるという経験を味わうことが出来ます。言葉を替えると、自らの頭の中を漫然・漠然と(無整理に)入っていた知識が整理されてすっきりさせることが出来るのです。
例えば筆者が日本酒の利き酒師という資格をとったときは、丸2日の講習と実技指導をうけて、1か月後に丸一日の試験(午前は筆記、午後は実技)をうけるのですが、試験の数日前は、過去問相手に久しぶりで必死で勉強(記憶)をしました。(もちろん、実技試験用ではなく筆記試験用ですが)その結果、頭の中が整理でき、なんとか合格したわけですが脳内のイメージでいうと、5分の1から10分の1への圧縮(すなわち脳内キャパは4-10倍)という感覚が生じたのです。利き酒師の免状を頂戴するときに、酒の知識はかなり空っぽになったという気がしました(これはキャパ空間が広がったといってもよいでしょう)。
またそのときの訓話が大変ためになりました。「皆さんはこれから、日本酒のプロになります。決して断片的な知識のお披露目はしないように、特にこの酒はうまいとか、これはまずいとか言わないようにしてください。お酒の美味しさは個人の相性や趣味で異なります」。じゃあ何が利き酒師として意味があるアドバイスかというと、「出された料理やその時の季節、気候にあった日本酒は何かを聞かれたら、積極的にアドバイス、リコメンドしてください」とのことでした。また重要なポイントとしては「もし品質に問題があるときはちゃんと言わなければいけません(いわゆる日本酒の品質不良、特に高温や紫外線による変質ですね)」。このために「利き酒師」をとるときに併せて(必須)「日本酒品質鑑定士」をゲットします。
この話は、実はコンサル業一般としても実に意味が深い言葉です。まさにコンサル業は自分の知識の押し売りをするのではなく、必要なときに必要なことを、お客様(顧客、クライアント)と一緒に考えてアドバイスしたり、その俯瞰的フレームワークを提供するものだからです。顧客が本当に必要としているものをピンポイント的に提供できることが必要になるという意味で同じです。また、品質不良の酒のような行為や考え方については、明確に理由をつけてダメ出しすることも必要となるということになります。
以上、今回の資格の話を整理すると、もちろん専門性を証明できるような資格であれば自分の頭の中を整理し幅を広げるという意味でよいといえます。しかしそれぞれの資格に拘泥したりこだわると視野が限定されるということも生じるようです。また資格者の業界団体がありここでの規則や規定に縛られると、能力に関係のなく絞られていく可能性もあり、有能な人によっては各種の制限となって自分の価値を発揮できないことにもなるようです。資格はあってOKではなく、クライアント確保のきっかけとの意識も大切になります。
(2019.10.14 出川作成)
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