●第175回「京都フォーラム」

 

●第175回「京都フォーラム」

【日 時】2019年6月22日(土)13:15−17:00(開場:12:45)
【会 場】京都商工会議所 7階 7-E会議室
【講 師】開沼 博氏 立命館大学 衣笠総合研究機構 准教授 
【演 題】「科学技術の社会受容性向上のために技術者が行うべきことを考える」
      ー新技術の「脱魔術化」を事例にー

​【第一部 講演記録】

Part1 脱魔術化の問題提起

 古代から宗教や魔術により安心を得て来た自然現象(課題)は、

科学技術によって論理的に説明され、ソリューションが提供され

て来た。これにより自然リスクは抑制されつつある、一方、科学

の知見が高まり実用に至った原子力発電や薬など、人工物がもた

らす想定外の「人工リスク」が顕在化(増加)している。この人

工リスクに対し対処療法のソリューションが提供されつつあるも

のの、速効性に欠ける場合も多く、人々は我慢を強いられている。

ここに、再び、宗教や魔術的な心の解決も提供されている。

 「ナッジ」と称されている、人々が気づかぬ間に誘導されて行

動する社会も存在している。例えば、器具に付与された矢印など

イラストに導かれた無意識な操作、ルールや高シェアなど情報に

よる意図しない主観的な判断がもたらす社会 が該当する。これ

らがナッジが意図する、無意識や非合理を何者かが支配する

(ように見える)社会である。 

 これらのあたかも再魔術化されている状況に対して、科学技術は、

今、どのように関わっていくべきであろうか。誰のために何を提供

(脱魔術化)していくのであろうか。

  

Part2 福島の現状(世間の認識(魔術化された情報)と実際の差)

  震災後の福島に関する15の問いを通じて、福島の現状に対する理解を深める。また、この自分自身の福島に対す

る理解と、その根源に自問自答するキッカケを得た。

 結果、多くの参加者に理解度が足りていないことが確認された。これは、福島の情報が隔離されているのでは無

く、政治、科学の両分野での過剰な反応(情報)が、個人・企業と福島の精神的な距離(壁)を強いているとの見

方もできる。

 この様な福島との関係において、科学技術はどのように関わっていくべきであろうか。

【第二部 グループディスカッション】

 「自分が開発している新技術を市場投入する際に、その社会受容性を高めるため、

今、自分自身が、エンジニアとして、何をすべきなのか、何をしないといけないのか?」

をテーマにグループ討議と発表を行いました。

【参加者の感想(メーリング)】

 参加者1

 講師の開沼先生は福島の生まれで、震災の前から福島の社会状況を研究されており、震災の

前後の変化も踏まえてデータに基づいて丁寧に研究されています。その内容をベースにした今

回のフォーラムでの講演は「科学者」としてどうあるべき、どうするべきなのかを、重要な視点から教示頂いたのだと

思います。

 今回、講演の中で「福島に関する15の質問」を元に如何に人は真実を知らないのか、イメージで判断しているのか

を具体的に見せてくださったのはその一例と思います。

 さて、今回の講演のタイトルは「科学技術の社会受容性向上のために技術者が行うべきことを考える」-新技術の

「脱魔術化」を事例にー でした。最初は?という感じでしたが、内容を振り返ると常に考えている「科学に対する

リテラシー向上」のための重要な手段といってもいいかと思います。

 人間の科学に対する価値感や捉え方は、自然リスクとの関係性 たとえば宗教でとらえていた時代から、科学技術の

発達により自然リスクに対峙できるようになったと思える時代、さらには科学技術によってその科学技術が新たなリ

スクを生む時代へと変化する中で、科学に対する信頼感の変化(減少)や呪術的な科学への傾倒も起こり得る状況に

なってきているのかもしれません。

 その背景には、いろいろなリスクや社会的な問題が複雑に発生し、人間が捉えられる部分、捉えられない部分があり、

また科学がその時点では制御できないことや想像できなかったことが起こっていることもあります。ただ、そういう

ことも許容し適切に対応していくことが重要で、そのためには正しい情報に基づいた正しい理解をする努力、しても

らうようにする努力が重要です。

 科学者としては、まさに実際のデータ、情報に基づいて、かつ、そのデータも時間変化も考慮して捉えて出来る限り

正しく、かつ真摯に理解し、それを分かりやすく社会に広めることで社会に科学的な価値を還元しより良い未来社会

を創る そうしてくことが大切と感じた次第です。

 

 参加者2

 「脱魔術化」という聞きなれない言葉でしたが、開沼先生が講演前の移動中の新幹線の中で作成された説明資料の

追加部分が我々の理解にとって非常によい助けとなりました。

  キーワードは3つ。どれも、技術者としての真摯な態度だけでは必ずしも十分ではない、見識が問われる内容だと

思いました。

 一つ目は、リスクです。我々技術者が考えなければならないのは「科学技術が作り出すリスク」です。我々技術者

ともすれば専門分野しか見ない・見えていないのですが、社会学者から見ると全然違って見えていると感じました。

 二つ目は、「ホモデウス」神になろうとする人間。科学技術の進展により、不老不死を手に入れつつある人間の事

す。これらの技術を進展させるための生命倫理(倫理観)も含め、これからの科学技術の進展においては、無視でき

いキーワードです。

 最後は、ナッジ。近世以前の(殺す)権力から、社会規範や規律訓練型権力による支配(例えば、学校教育)の段階

を経て、アーキテクチャーとしてのナッジによる支配。ナッジによる権力支配は、「無意識や非合理を何者かが支配す

る社会」を招来させてしまいます。

  技術者は、自分が世に送り出した技術が、何者かによって「無自覚的に」利用され、自由意思による選択を認めな

い社会にならないように気を付けないといけないと思いました。(例えば、脳死判定に基づく臓器移植によって、救わ

れる命があるときに、脳死による臓器提供を強いる社会になってはいけないなど)

 参加者3

 講演の冒頭で「科学技術の社会受容性向上のために、技術者が行うべきことを考える」ための社会科学分野の

キーワードを詳しく解説していただきました。聞きなれない言葉が多く最初は戸惑いましたが、「ナッジ」という

考え方が印象に残りました。福島の事例でもそうですが、人間は頭では理解していても感情的には受け入れられない

部分があったりして、科学技術が社会に受け入れられるかの壁になったりします。そういう壁を乗り越えるために

「ナッジ」をうまく使って感覚に直接訴えることは有効だと思いました。

 福島の知人が、福島産のお米1000万袋に全数付いている、放射性物質検査済のラベルの写真を送ってくれました。

ふくしまプライド。と書かれた可愛らしいラベルです。

 先生の話では2015年以降、欧米基準の1/10以下という検査には全数が合格しており、年間50億円の費用がかかっ

ているとのこと。地元の農家を助けたいという気持ちと、安全だと言われても何だか気持ち悪いという感情もあるよ

うで、あらためて難しい問題だと感じました。