中国の経済発展は目を見張るものがある。雑貨・軽工業から始まり,鉄鋼・鉄道・機械・パソコン・携帯電話、そして自動車に至るまで日本のものづくり技術に迫り,航空・宇宙や軍事技術の一部では既に日本を凌駕したともいわれている。
中国の歴史を紐解くと、すでに6千年前に作られた硬いヒスイ から底付き円筒状の玉器が発掘されている。金属製の工具がない時代にどのようにして美麗に研磨され,精細な模様が付けられたのだろうか。3千年前には細かな唐草模様の透かし彫りを基調とした酒壺 が青銅で作られている。これは、現在ジェットエンジンのタービンブレードを鋳造する最先端のロストワックス(原型に蝋などを用いその周りを砂で固めた後、蝋を溶かし抜いた空間に青銅の湯を流す)が、既に、この時代に実用化されていたと考えられる。兵馬俑から発見された2千年前の御者と馬車の模型では、その手綱が引抜き加工された金糸・銀糸の細線で撚られ、その端部は溶接で結ばれている。
中国のものづくりが数千年にわたり高度な加工技術として伝承されていたころの日本では、縄文・弥生の土器造りの時代が続いていた。中国のものづくり遺伝子は、明・清の時代および閉鎖的な共産主義時代に途絶えてしまった。その間に日本刀に代表されるように徒弟制度による人から人への技術伝承を基本とした日本独自の文化とものづくりを基盤に、明治維新で極めて短期間に西洋文明を移入・昇華し中国を追い越すことができた。言い換えれば高度技術の知識や経験を教育し、共有し、伝承しないと遺伝子はたちまち息絶えてしまう。
昨今の日本はものづくりの中核であった団塊の世代が一線から退くとともに、まじめに働く価値観が揺らぎ、技術系志望の若者が減り、金儲けや安易な転職の風潮が強まっている。中国のものづくり遺伝子が目覚めつつある今、教育問題と併行して「ものづくり日本」を真剣に再興しなければならない。