●第174回「名古屋フォーラム」
●第174回「名古屋フォーラム」
【日 時】2019年3月9日(土)13:00−17:00(開場:12:30)
【会 場】日本特殊陶業市民会館 3階 第2会議室
【講 師】吉村 崇氏 名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 教授
大学院生命農学研究科 教授
【演 題】「動物の巧みな生存戦略に学び、食と健康の未来を開拓する:
異分野融合研究で体内時計を理解し、制御する」
【講演記録1】
3つの研究室で別々の研究をされている。
1)トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM:現在の本籍地)
2)農学部(出身の研究室)
3)基礎生物研究所(メダカの研究)
+創薬研究
<オーディエンス(未来塾)の対策>
最近の未来塾は、総括的で評論的な内容を議論の的になることが多い。
エンジニアが個人の力量を磨くことを目指すNPO。
普段接しないコスト感覚や人間力は、本日皆さんから学びたい。
今日は、何をいままで考えて研究をしてきたか紹介したい。
<子供のころの話>
自分の夢“あほちゃうか”ということに挑戦したい。
今日はワクワク感や夢についていまいちど一緒に再考した。
滋賀の田舎での子供のころの話から体内時計の話へ
(2017年のノーベル化学賞のテーマは体内時計の分子機構:視床下部に時計機能が格納されている)
<学部時代>
研究の分野で世界一になりたい。
突然変異で視細胞がないマウスを用いて青色の光によって概日時計がリセットされることを発見!
⇒視神経の研究はされつくされているので、新発見はないということで論文は却下される。
“人の論文から学ぶことができるが、それがすべてでないので、自分の目で見たものしか信じないことが大切!“
<Master時代>
世界一の研究するために、一流の人がどうしているか学びたかった、
しかし普通に留学するのも面白くないと思い、当時競争相手のバージニア大学の先生に研究室に行きたいので
お金出してとお願いしたら、3カ月間米国の研究室に招待された。
日本との違いについて学んだ。
研究機器・人員は日本のほうが優位、異なったのは研究室間のインターラクション、zip code effectを破る政治力。
PIのmanagementやoriginalityが違い、豊かな生活が違うように感じた。
でも、米国の3カ月の経験から日本からの研究発信にこだわることになった。
<Doctor時代>
限界にチャレンジ、自分の限界がどこまでかを知ることでぎりぎりまでできる。テニス、スキー、フルマラソン、自転車。
⇒ツールドフランス見たくなり、ビックコミックスピリッツに企画を投稿して無料でツールドフランスにいけた。
助手の採用通知もフランスで受領。この経験で企画書の書き方を習得したかも。
<助手時代>
製図室跡地を与えられゼロから研究室を立ち上げないといけなく、ごみ箱あさりからいろいろ揃えた。
工夫次第で何とでもなると学んだ。とにかく、研究成果を投稿して採用してもらわないといけないので、通るために、
論文が採用されている先生の話を一人一人きいた。
この経験らから成功するためには、夢を語る、チャンスを与えられたら、とにかくやる。
更に確実に成功するには、研究を始めるにあたり傾向と対策が必要。
ネイチャーに投稿される条件(独創性・重要性・学際性・分かり易さ・意外性・エレガンス)記載されているが、
自分の目指すスタイルは、この人がいなかったら、この分野は存在しなかったという研究者を目指したい。
大隅先生もそんな一人です。”チャンスを与えられたときに、失敗を恐れずやる。やる前には準備が必要!”
<農学部での研究>
独創的な研究には最新の器具も必要かもしれないが、ユニークな材料が大切。
先生にとってのユニークな材料は、メダカ・ヤギ・マウス・羊・ヤマメ・鶏・
ほやなどの動物でした。
動物を理解することが大切。
動物の鳴き声の話へ、鳴き声は、DNAにより引き継がれている。
鳴き声の遺伝解析するために200匹を鳴かせないといけないが、思ったように
鳴いてくれないので鳴くタイミングを研究。
なんと体内時計により鳴くタイミングが決まっていることが初めてわかった。
最後には人はなぜ喋れるかにつなげたい。
ここでも、いろんな先生にどんな研究に取り組むか聞きまくった。
そんな中、名大の先生に言われた“あなたの研究は本質的な疑問ですか?”が
きっかけで、体内時計にこだわり、繁殖の季節性と体内時計の関係を農学部
で研究することになった。
繁殖期は、例外を除き季節性がある。1925年光が重要で光周性が発見された。
繁殖活動は、視床下部ー下垂体ー性腺 軸でコントロールされている。
視床下部から、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)が下垂体に作用してLH,FSH(性腺刺激ホルモン)が
下垂体から精巣に分泌されて男性・女性ホルモンが分泌される。
GnRHが季節性を持っていることを証明したかった。哺乳類は目でしか光を感じられない、鳥類は頭で光を感じられる。
なぜかは分かっていなかった。
masakazu konishi先生やクローグ先生に刺激を受ける。
アウグスト クローグ;”多くの謎にはそれを解明するのに最も都合の良い動物がいる”
この疑問を明らかにするための材料は? ⇒うずらを選ぶ。うずらは渡り鳥、季節を感じて、精巣が100倍以上変わる。
この研究を通じて季節を感じる遺伝子を特定できた(DIO2)。
”誰もやってないことをやるにはリスクをとる事重要、絶対こうやったらうまくいく戦略を信じて実行することが重要”
人間では、DIO2は甲状腺の中で作用している。
最後は、最先端技術(遺伝子解析)で1000万円かけてでもエレガンスに光周性を確認。
”研究で大切なことは、いろんな手法の中でもエレガンスな手法で解明すること!”
うずら11.5hの日照時間では卵巣は大きいまま、12h超えると卵巣は小さくなる。
次の疑問は、うずらはなぜ30分の違いを区別できる?
これを基礎生物研究所でやっている。
<基礎生物学研究所での研究、大隅先生もこちらで研究されていた>
メダカは、大きな移動はできないので、地域性を反映する。
地域によって光周性の周期が異なるので、本質を研究している。
メダカの光への応答性は季節によって異なることもわかる。メダカは人よりも多様な視物質を持っている。
季節によって、色覚が変わっている。人間も心理学者の論文では色覚の季節変化もあると報告されている。
<ITbM>
暮らしの在り方を変容させるような物質を見つけたい。この研究所はWPIの一つとして位置づけられている。
開所にあたり、生物学者・化学者・計算学者は同じ日本語でも違う。新しい仕組みをつくることにして融合させる
ことになった。研究所に壁がないのが特徴。体内時計を狂わせるといろいろな病気になることが分かっているので、
体内時計を早回しする化合物を発見。
ハイスループットスクリーニング装置を開発してもらい、既存薬のスクリーニングから体内時計の周期を変える
化合物を発見。人間も季節の影響を受ける。例えば、誕生月によりかかりやすい病気が偏る。
自殺率も地域性があったり、冬季うつ病があったりする。これらを理解するために、小型魚類をつかって複雑な
精神疾患を理解するモデルとして期待している。10年前なら先生も“あほちゃうか”と思ったけど、めだかで人を
理解したいと思っている。
冬でも社交性を上げる物質を見つけた。漢方薬の一つだけど、毒性があるので、共同研究を薬剤メーカーとやっている。
”科学者にとって必要なことは、感動と好奇心”
【講演記録2】
・講演概要&資料
>テクノ未来塾・塾生向けに作り込まれていましたネ。
また、インド出張を1日延ばしてまで講演して下さったとのこと。
自分も勉強したい…とのスタンスも素敵。
名古屋フォーラムに参加できなかったメンバーは、是非、資料を通しで見て欲しいですが(先生曰く)「恥ずかしい」
コメントページは抜けています。やっぱり参加しないと…
・印象に残った話
>ブルーライト:先生が新たな青色光受容器が強い青色光を関知して概日時計をリセットするのを見つけた。
⇒「強い青色光が体内時計を狂わす」
体内時計調整:ドラッグ・リポジショニング(既存薬の異なる効果発現)で体内時計の周期を変える研究。
⇒でも、光で治療できた方がもっと良い。
研究テーマ:子供が不思議に思うことを解決してあげたい…から着想する。
「変わっている」と言われると嬉しい。⇒流行は追わない、欠けているところをやる
(多くの人がやっていれば、それはいつか誰かが解決してくれる)
「次を期待される研究者になりたい」
研究の進め方:企画書は「思いを伝えれば、夢は叶う」「一歩一歩、進めば夢は近づく」
「今ここでやるべきか?」…オリジナルなら今じゃなくても/後でも良いかもしれない
化学と生物学:ケミストは「作るのは簡単、何に使えるか問題」バイオロジストは「どういう仕組みか解明する」
⇒このコラボで、安全に治療できる薬を目指す。
【参加者の感想(メーリング)】
参加者1
昨日開催された名古屋フォーラムに参加しました。
とても良いフォーラムでした。準備頂いた、松井さん、早川さん、本当にありがとうございました!
今回講演いただいた吉村先生の研究分野は「体内時計」ですが、それを異分野融合研究で解き明かして最終的には世の中に役立つよう
な研究に仕上げる(ここは企業と一緒に)ということ熱く語って頂きました。
内容も非常に興味深かったのですが、まず「私には夢があります」で始まり、「あほちゃうか?」ということに挑戦したい!
このつかみは面白かったですね。
これがやっぱり何かをしようとするには大切なことだと本当に思います。
分かっていることや、当たり前の事を基準にするのではなく、「好奇心」や「感動」を元にチャレンジすることを決めて取り組むと
いうことの大切さが伝わってきました。
結果、先生の研究では、たとえばブルーライトの問題に一番最初に気付かれ、それが「ブルーライトカット」につながったといった
成果に結びついています。
それから、単に「夢」を追いかけるといっても、しっかりと「目的=将来」を見据え、それに向けてどういう「戦略」「戦術」で
取り組むのかを決めて失敗しても忍耐強く続けるといったことをきっちりされているからこそ、いろいろな新しい発見をされている
のだと思います。これは我々も見習う必要があります。
また、ブレークスルーするにはリスクを取る必要があるということ、これは新しいことにチャレンジするには本当に大切なことですね。
現在、体内時計の研究をベースに人の健康に対して新しいアプローチに取り組まれていますが、それはたとえば創薬につながるわけ
ですが、そのためには化学分野との融合をどうするかが必要ですが、そのことに対しても自ら動いて人を巻き込んで取り組んでいく
という前向きな姿勢が本当に重要です。
こういったことはアメリカでの研究の経験から、PI(Principal Investigator)の能力が研究の幅を拡げるには大変重要ということに
気付かれて、それを実践されているからですが、残念ながら日本ではまだあまりその点が重要とは認識されていないですね。
ちなみにPIで最も重要な能力の一つは、アイデア構想力、ファシリテート力と思いますが、吉村先生は両方とも素晴らしいと
思いました。また、その結果、人を巻き込む能力に優れていると感じたのですが、資料一つとっても我々のフォーラムのために十分に
構成などを練ってこられましたし、ニコニコしてしゃべっておられるし、質問に対しても否定されないし、そういったことは大切で、
当方はマーケティングでも重要なことと思います。それで、人を引き付けて仲間になってもらえれば出来ることが拡がります。
今回もオーディエンスを思い浮かべてストーリーを考えて資料を作られたとのことです。
懇親会では少し研究について幾つか質問、議論させてもらいましたが、ご自身の研究分野以外にも非常に興味を持っておられることが
良くわかりました。
そういうことも違う分野の人と融合して新しいことにチャレンジして取り組むには重要と思います。
さて、講演後のディスカッション、松井さんが少し新しい試みとして先生との質疑ではなく全体での議論を指向されたのですが、
30人は少し多かったかもしれませんが、一人一人がどう対応するかを少し考えればもっといろいろと出来るのではと思いました。
松井さん、トライアル、ありがとうございました。
その中で一つ気になったこと、これは当方がアメリカで仕事をしているときにも強く感じたのですが、日本では科学の成果がすぐに
何に役立つかを問われるが、欧米では科学そのものが文化になっていて、何か新しい成果が出たらそれは凄いということで認めて
もらえることです。もっと、日本で科学に対しての理解力を高める必要がありますね。
そのために、何ができるのかこれもまた考えたいと思います。
それから、最後になりますが人の縁は本当に大切です。詳細は述べませんが、今回の講演が実現したのは、まさに人の縁でした。
どうもありがとうございました!
参加者2
1.その謎、疑問は本質的なものか?
吉村先生の少年時代からの好奇心の源泉、学生時代・院生時代、実現したいことに向かっていく発想と行動力、
その結果としての副産物一杯の目を見張るような展開の数々、「あほちゃうか」と言われても「ハイ」と笑って次に進む明るさと
逞しさ、感動的。(ex.メダカを調べても人間のことはわからないよ。メダカを擬人化するな!=精神科の研究者)
2.それは本当にやりたいことか?やる価値のあるものか?
自分のやりたいことに誠実に向き合い続けているからこそ、他人にも誠実、仕事の仕方も誠実、役職者になっても軸がぶれない。
こんなに素敵な生き方をしている研究者が世の中にはいるんだ!と敬服と羨望の想いを抱いて(事務局忘れて)聴き入ってしまいました。
3.今、この時代にここでやるべきか?
――本当に価値のあることは、自分でやる!
先生のご研究内容の面白さに加え、その進め方、生き方そのものに、圧倒的なエネルギーと有形無形のメッセージを頂いたフォーラム。
特に、吉村先生が徹頭徹尾、I メッセージを発信されていたことに感銘を受けました。
PI(Principal Investigator)の話をされたときも、あくまでも、I メッセージ。組織の長としてでなく、組織のためでもなく、
ひたすら、主語は自分(I)。自分の夢。
4.研究は芸術である
この項、「未来編集考学」に続く。
参加者3
吉村先生のお話は体内時計とは何かを考えながら楽しく聞かせていただきました。
複数の研究所で複数のテーマを掛け持ちながらいろいろなシナジーを成果として出していくスタイルにかっこよさを感じました。
質問にもさせてもらいましたが、たくさんの事をして上手くいかない事もあるけれどそれを的確に応用していく姿勢に成功の
秘訣があるように思いました。どうもありがとうございました。
おまけ
日本特殊陶業市民会館の周りになにか面白いものがないか探していると裏手に大きな古木が見えました。
榊白山社という1000年以上の歴史のある社でした。その境内の中の小さな社には「世界唯一の縁結びの神様」と書いてありました。
世界唯一!がこんなところにあった。
参加者4
講演は「夢について考える機会になれば」ということでしたが、吉村先生の夢(=科学の研究)と研究に対する先生の想いを
伺うことができました。感想をお送りします。
「欧米の研究者に尊敬される研究を日本から発信したい」、「新たなチャレンジ、新しいことを勉強することは楽しい」
という気持ちは、夢=研究=楽しさが一体になって、大きなドライビングフォースになっている(素晴らしい状況を
作っておられる)と感じました。
また、夢の実現に努力すること(毎月真剣勝負)も楽しい」と、生き生きとした表情でお話されるのを聞き、聞いていた私も
楽しい気持ちになりました。
楽しいという気持ちを持つこと、そのために、興味を持つこと、好きになること、やはり気持ちが大切だと感じました。
また、印象に残ったのは、「科学を深掘すると、文化・芸術(美しさ?)に通じる。科学は文化・芸術と同様creativeなもの。」
という旨のお話です。これは科学・文化・芸術には共通する基本原則があるという事だと理解しました。
きっとそうなんだろうとは思いましたが、私自身はこれまで感じたことはありませんでした。意識して感じることができるか
分かりませんが、意識してみようと思いました。
参加者5
体内時計が今回のフォーラムの話題にふんだんにちりばめられていて大変興味深く、お話しされた話題以外に、免疫などへの
広い分野へさらに展開されつつあるとのこと。
「体内時計」をキーワードにさらに個人的にも時間を作って情報を収集していきたいと思います。
さて、今回の先生との議論で大変興味を持ったのが名古屋大学の中での基礎生物研究所、大学院生命農学研究科、さらにトランス
フォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の連携の在り方です。
ともすれば、企業の中でも、職場の中でさえ縦割りの弊害がある中で、現在、グローバル化の中で国の枠もない状況が進む中で、
この縦割りのもどかしさに何度も遭遇します。
どれだけ、名古屋大学、さらには外との連携の中でWPI-ITbMの研究のアクティビティーが活性化、ワクワク、イキイキ進んで
いるのか、今回のレジメを含めネットでも情報を見つけて今後の活動に参考にしていきたいですね。
プロジェクトの中で「エンジニアという職業を語ろう」という活動をしています。
どうしても自分の体験談をベースに作りがちです。今回の目線から、自分の経験のしたことのない情報も積極的に取り込まなければ
と思う一方、塾生のネットワークから吉村先生に着目され、このような機会を設けてくれたこと。これもプロジェクト活動展開に
取りこんでいきたいですね。今後とも、ワクワク、イキイキできる活動をご一緒できることが楽しみです。
参加者6
「私には夢があります」人生は一度だけ・・・楽しまないと損
どうせなら「あほちゃうか?」ということに挑戦したい
ワクワクや夢について今一度、考える機会になれば・・・
で始まった講演は、最後まで吉村先生のワクワクに満ち溢れたものでした。
どこからそのエネルギーが生まれてくるのだろうか?と、吉村先生のコメントを振り返ってみると、
1)エネルギーの源泉
・教科書を塗り替える仕事がしたい。
・米国を後追いするのではなく、知恵と工夫で日本人しかできない仕事をする
・暮らしのあり方を変える分子を作りたい
2)研究への取り組み方
・自分が相手にしている材料ととことん向き合う。
・上手くいかない時にデータと向き合って後ろのある背後にあるのを考える
・オリジナリティーの源泉は面白いか、面白くないか
本質的な疑問か否か、取り組むことに値するか
3)科学者として
・大切にしていることは、自分の目で見て確かめること
・実績に関わらず、やりたいと思う夢を語る。思いを伝えれば夢は叶う
・限られた時間を上手に使う。その為に組織の枠を超えて、グローバルで会いに行く
・思いの伝える為に一期一会を大事にしている。
聴衆の顔を浮かべて伝えたいメッセージを明確にしている
・寓者は経験に学び、賢者は歴史から学ぶ
多くのキーワードは、広く知られたものかも知れませんが、吉村先生のようにそれを自ら実践されておらえれる方は
決して多くはありません。平成最後のフォーラムで吉村先生のお話を伺えたことは貴重な経験となりました。