早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
浅川先生の人柄・授業の面白さに惚れて,浅川研だけに絞って希望を出した.ジャンケン配属ではあったが,希望の浅川研に見事入れた.ところが夏期実験では研究室仲間はだれもいなく,共同研究先までの通学時間も長く,実験もつまらない.浅川研はこんなにつまらないのかと,理想と現実のギャップを感じた.“隣の芝生は青く見える”の言葉通り,本業を疎かにして,アルバイトなどに力を入れ始めた.だんだんと研究室からも足を遠ざけた.研究室の行事や発表会にも参加しなくなった.たまに研究室に行くと 先生からは怒られっぱなし.完全抜け殻状態.こんな状態で就活をしていたが,一本に絞っていた企業から内定ももらえず,ニート候補生となる.“抜け殻学生”を採用してくれるほど世間は甘くなかった.この時の挫折感は浪人時代以上だった気がする.
今の現状をマイナスにではなく,プラスに考えることにした.研究に一生懸命取り組んで,浅川先生の私に対する評価を覆してやろうと考えた(新たな目標).そんな思いで研究を続けること,三か月.あるとき共同研究先の発表で“これなら社会人生活やっていけそうだ”と初めて先生に褒められた.うれしかった.
研究室で一番世話になった親友A君.私の卒業証書の半分は君のものといっても過言ではない.それぐらい世話になった.やる気のない落ちこぼれをめげずに,一年間指導したあなたは観音様だ.君は将来のリーダーにふさわしい人間だ.社会にはエリートが一杯いると思う.でもそれ以上に不器用な人間,頭の悪い人間,やる気のない人間の方が圧倒的に多いのが事実.エリートを引っ張っていくエリートよりも,凡人をうまく輝かせることのできるエリート,やる気のない凡人にやる気を出させるエリートが必要だ.君はやる気のない私にやる気を与えてくれた.普段浅川先生に怒られっぱなしだった私が,卒論審査前日に“発表がうまい!”とほめられたんだよ!これは君が面倒みてくれたからだよ.発表前はバイト終わりに徹夜で付き合ってくれた.頑張れといつも声をかけてくれる.成長したと評価してくれる.一緒にスケジュールを考えてくれる.とにかく一生懸命に私にやる気を出させるように考えてくれる.この一年間君から学んだことは研究面よりも,人格的な面で学ぶことが多かった.君と研究できたことは大きな財産になった.
最後に浅川先生には多大な迷惑をおかけしました.何度信頼を裏切ったことでしょうか? そんな私を最後まで指導していただいた.先生の厳しいお言葉は一つ一つ私の頭に記憶されております. “エンジニアのセンスがないね”,“こんな発表してたら企業でやっていけないよ”,“論理的じゃないね”,“心がこもった発表じゃない”とショッキングな発言で心はズタズタです.でも,“オー,この発表だったら社会で通用するね”,“一年前では考えられないほど頑張ったな”というほめ言葉が100 回に1 回ぐらいとんでくるだけで,うれしかったです.叱るときは全力でしかる.褒めるときはさりげなく褒める先生の指導が大好きでした.私が道を踏み外す時は先生が全力で叱ってくれたから,やる気のない時に喝をいれてくれたから,今の自分があると思います.最後まで見捨てずに指導してくださり本当にありがとうございました.