ドイツ博物館の鉱山展示の紹介です。館内に入りクロークで荷物を預けると、その脇にある19世紀~20世紀初頭の巨大な鉱山の立坑掘削機が目に入ります。この立坑の中を覗くと、地下にある鉱山関連の展示につながっており、16世紀から現在に至るまでの採掘技術が地下空間に再現されています。地下への階段を下りていくと、本当の鉱山に入っていくように思えるほど、展示のリアルさに驚かされます。
巨大な立坑掘削機の展示に続いて、16世紀のノミと槌を使った手堀りの様子から19世紀の採掘現場、採掘した鉱石を運び出すトロッコなどが再現されています。このあたりは日本の鉱山観光施設で江戸時代のタヌキ彫りの様子から明治初期の近代的な採掘が始まった頃の様子が展示されているのとよく似ていますが、総合博物館でここまでリアルな展示が見られるとは思いませんでした。また、鉱山の展示は地下にというところに、ドイツらしい拘りが感じられます。
この後は、ヨーロッパにおける古代の金や、石器時代のflint(火打石)など露天掘りの歴史から、岩塩、石炭の採掘へと展示が続いていきます。ここには、Golden Fleece(金羊毛)の神話を紹介したパネルがありました。紀元前13世紀のギリシャ神話に登場する物語で、黒海沿岸のコルキス(古代のグルジア(Georgia))からアルゴー号で金色の羊毛を持ち帰る物語です。因みに現在、Golden Fleeceはブルックス ブラザーズの商標として使われており、それがこの神話に由来することはこの原稿を書いている時に知りました。5000年に及ぶ金の採掘の歴史の中で、古代の金の採掘方法として、①小川に羊毛状に広がった砂金の採取、②井戸の底に溜まった金の採取、③火を使った爆破による金鉱石の採取、の3つが紹介されていました。また、古代においてflintの採掘はフランスやイギリス、デンマークで行われ、そこからヨーロッパ各地に運ばれていたようです。近代でもflintは、フリントロック式銃の点火に使われていました。
現在、世界の鉱石の70%(年間100億トン)が露天採掘により産出されているそうで、地勢に左右される露天採掘は地域に偏りがあります。ドイツではlignite(褐炭;低品位の石炭)が多く取れるようですが、銅はアメリカ、チリ、ペルー、ザイール、鉄はオーストラリア、ブラジ ル、カナダ、南アフリカで多く産出することは、高校の地理の授業で習ったとおりです。こうしてみると、古くから金、銀、銅を産出した日本の地勢の多様さと、たたら製鉄に代表される独自の精錬技術を発展させた日本人の創意工夫をあらためて感じます。
ドイツといえば、19世紀以降、ルール地方の炭鉱から算出される豊富な石炭を使って重工業を発展させたことで知られていますが、鉱業の近代化において炭鉱関連の展示は特に豊富です。精巧なミニチュア模型の展示、実物の機械のカットモデルも多数あり、それらを眺めているだけでも楽しめます。明治以降、炭鉱開発を中心に重工業を発展させてきた日本の歴史にも近く、日本人には馴染みやすいでしょう。
最後は鉱石の精製プロセスのミニチュアモデル、石炭産業の現在と将来についての展示があり、次の金属精錬のコーナーへと続きます。