早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
日本人もあまり知られていないが、日本の大学進学率は 53% 前後で、OECD 先進国平均より7ポイント程度低く、最低部類に属する。日本では大学進学者のうち理工系が 2 割強しかいない。先進国では最低でも4割、韓国・ドイツでは2/3を超えている。日本の場合、文科系進学者の多くが高校2年以降、数系の訓練を受けていない点が大きな問題である。これは中学・高校の数学の教え方に難点があるからだ。特に文理に関係なく、虚数や行列・微積分・統計学・Excel 活用による実計算法などが、いかに社会に出てから役に立つかを高校時代から教え込むべきだ。そのためには、数学を興味ある授業とするために工学系出身者(実務経験者)が教師になることが極めて大切であると考えている。このように日本の理工系大学では、絶対数が少ないうえに2000 年以降から情報やバイオに学生の人気が集中し、ものづくり産業の核である機械・電気・材料系に優秀な人材が、ますます集まりにくくなっており、ものづくり産業を根底から揺るがしている。大学でのものづくりの教育・研究は極めて大切である。筆者は、今から40 年前に企業の企画部に在籍し、「米国の鉄鋼業はなぜ衰退したか」を調査する機会を得た。結論は「①優秀な人材が鉄鋼業に来なくなり金融界にシフトした,②鉄鋼業が設備投資しなくなった」の2点に集約された。40年後の現在、日本の鉄鋼業のみならず、ものづくり業界がまさにこの罠に陥ってしまいつつある。