早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
私はいま理工漕艇部の,頼まれ部長をしている.本漕艇部は’1987 年に日本代表として世界選手権に出場したことがあり,理工学部でも名門と知られている.
ここに所属する学生の雰囲気は日頃講義や研究室で接する一般の学生と異なる濃密な一種の異臭を発散している.高度成長期以前の大学生は「愚直」に「真面目」であらゆることに若さで「突進」し,「挫折」「彷徨」を繰り返し「自己嫌悪」「疎外」を痛感しながら一生の「親友」を求め「自己を確立」する過程といわれ,クラブ活動に活路を求めて行った.それは自分を鍛える場,一生の友人を作る場としての効用があった.先輩に胸を借り,鍛えられ,同期の仲間からは遠慮会釈なく丸裸にされ,同じことを後輩に引き継いで行った.
理工漕艇の学生に初めて会ったとき,直感的にその臭いをかぎタイムスリップしたように感じた.苦しく何度もやめようと思いつつ結局やり遂げたほろ苦い青春…彼らの行動をみるにつけ「ああ,そうだったな,同じことで自分も悩んでいたよ」と呟くことが多い.
今,若い多くの学生は自分が傷つくことを畏れ仲間に揉まれるより一人でいることを選択しがちではないか.対人関係も干渉せず当たり障りのない気楽な交友が好まれていないか.
大学生はクラブやサークル活動で「人間力」を鍛えることが必要である.早稲田はその点日本の大学の中でも施設・内容とも最も充実しているが,問題はこのような部活動に入部しない学生が多くなっている現実をどう考えるかである.理工学部の場合3年~4年生の全員ゼミ,4年生の卒論による寺子屋教育により(当然クラブ活動で養うはずの)人間力が不足している学生の最低限
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文系の一部にはゼミや卒論がないと聞くが,クラブ活動もゼミも卒論も経験したことない学生が社会に出たときに,どう生きて行くのだろうか・・・と不安に感じるのは小生だけであろうか.