早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
私は,教員にも学生にも「一コマ:7 千円の重み」を毎年話している.最近では「一コマ7 千円の先生」とも呼ばれるようになった.
早大理工系は,4年間で500 万円以上の授業料が学生諸君から納付されている.授業料から計算すると,2単位あたり8 万円の勘定となる.2単位が一科目とし,半期で12 週を前提とすると,一人の学生から一コマ(90 分)につき7 千円を頂いて講義していることになる.今どき90 分で受講料7 千円の講演会・講習会など殆どない.
それにもかかわらず,主人公である学生はときどき講義を欠席する(教員も休講することがあるが・・・).これは7 千円をその都度ドブに捨てているのと同じである.さらに時給1 千円を求めてアルバイトに汗している学生がいる.苦労しながら1 千円余を稼ぐために7 千円を無駄にしていることになる.
逆に大学・教員の立場からみると,事態はもっと深刻である.私の所属する機械工学科の場合一学年290 人が在籍している.例えば教室の入り口で通常の講演会のように学生から受講料を集めたとしよう.毎回90 分の講義で2 百万円がドーンと机の上に積まれる計算になる.どんな知名なタレントを招いてもこれほどはかからない.このことを考えたら教壇に立つたび,足が震えてくる.これから導かれる結論は「講義に関してはいくら準備しても,準備し過ぎることはない」ということだ.文系ではややこの算定よりも低くなるが基本は変わらない.国立大学の場合は多分実質的にはこの2~3 倍とみて良い.
毎年父母からのアンケートのトップは「学費が高く家計が苦しい」との叫びである.同時に「息子は遊んでばかりいる,講義がつまらない,休講が多い」との苦情が続く.授業料負担者としてもっともなことである.今,政府・各種公団の税金のムダがやり玉に挙がっている.すべては費用対効果の問題に帰着する.人間が限られた資源と環境で生きている以上,教育も聖域ではない.要は,一コマ7 千円の重みを実感できる教育をいかに教員・学生で構築するかにかかっている.