早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
機械工学科の名称を「知能機械」,「機械情報」,「機械システム」等と細分化・先端化している大学が多くなった.むしろ名前を変えるのなら「基礎機械工学科」,「基盤機械工学科」,「基幹機械工学科」等とし,幅広く基本的な科学やエンジニアリングセンスを養成する基礎に重点を置くべきであり,産業界もそれを期待して
いるはずである.
一方よく産業界から,「大学教育は役に立たない」と批判され,それを反映したわけでもないと思うが最先端の技術名を冠した選択科目が増大している.研究そのものは最先端分野を推進してもよいが,無地の学生に最先端技術を教える場合,よほど注意しないと地に足がつかない独善性に陥りやすい.例えばロボット工学もバイオエンジニアリングもその元をたどれば,力学,機構学,制御工学であり,流体力学,材料力学である.この基礎・基盤科目こそ大学の教育に課せられた使命である.よく応用物理学科の卒業生は産業界で評判が良いと耳にするし,私もその経験がある.即戦とは言えないが,仕事の領域が変化しても,常に物の道理を基本から考える習慣があるため,よく掘り下げた着実な仕事ができる.
機械工学科が「潰しが効く」との評判を得たのも同様なことと考えられる.機械系では,材料力学,流体力学,熱力学,機械力学および機械設計,機械実験・実習科目はその根幹をなしている.しかし「ゆとりの教育」から総単位数が減少し,そのしわ寄せがこれら重要科目の削減に繋がっている.むしろ私は機械系にはもっと数学・物理に重点を置いた工学演習(演習でないと身に付きにくい)の科目を増強すべきであると考えている.これらの科目は就職してからは再教育しにくく,大学時代にこそしっかりと修得すべき基礎・基盤科目だからである.
日本の狭い国土に一億の民が生存していくためにはイノベーションを伴った「もの作り」に専念するしかない.日本システムがおかしくなった今こそ,イノべーションを発露する根元の教育が大学に求められている.