米国ではノーベル賞級の学者が理科の教科書を作ることもあり,一冊100$以上の価格が一般的である.したがって日本の教科書の厚さ・大きさには世界との大きな差が生じている.私らが執筆した「基礎機械材料学」は,小さいモノクロA5 版2 百頁,2.8 千円である.一方,米国で使用されている大学初学年の「機械材料」の教科書は,多色刷りB5 版相当で千頁前後,価格は1 万円を超える.カラー刷りの図や写真を見ているだけでも楽しい.
日本の出版会社は「今の大学生は3 千円を超えた教科書は買わない.欧米のようなカラー刷りの良心的な教科書を作りたい気持ちはあるが,学生だけでなく教授からも相手にされない」と嘆いていた.
教科書以外に,もっと厳しい現実がある.米国の大学では1週間に6 時間以上の学習時間が80%以上を占めているのに対して,日本では32%以下である.0 時間(全く学習しない)が1割を占める.我が国では大学入学が目的化し,大学で学業を修める本来の目標が喪失しまっている.
なぜ日本の学生は大学入学しても勉強をしないのであろうか? これは学生の問題もあるが,就職に際して学業成績に関心を示さない企業側にも責任がある.まず,採用基準は協調性に始まり,アルバイトやクラブ活動でリーダーシップ経験などが優先され,肝心の成績は重視されない.
筆者の研究室の学生が就職する際,その学生の研究や学業について,指導教授にヒヤリングに来た企業は,大学に勤務していた20 年間で一社もない.また企業のトップを招いて大学で特別講演を依頼する際,「『学業成績は関係ない,要はやる気と体力だ』,との言葉だけは控えてください」と,お願いしている.なぜなら,学生が「社会に出てからは,勉強は関係ない」と誤解してしまうからだ.一方,ハーバード大学の学生といえども,成績が「中の下」以下だったら,グローバル企業は見向きもしないと聞く.