この度,有志と一緒に培風館から基礎機械材料学の教科書を出版した.その冒頭で次の様に綴った.
「 なぜ機械工学に材料が必要なのか:機械工学を学ぼうとする諸君は,まずロボットに興味があり,自動車を中心とした環境・エネルギー,あるいはロケットを作りたいとか,航空機など流体に興味がある学生が大半であろう.しかし,機械系の学科に入り「機械材料を勉強しに来た」学生は皆無に近い。確かに,材料を勉強したければ最初から材料系の学科に進学するであろう。実際,機械材料の授業に出席する機械系学生の多くは,卒業に必要な単位を揃えるための一つの科目との気持ちが実情であろう.
ここで,諸君に是非理解して欲しいことは,どのような種類の機械であれ,「材料」を「加工」して作られるという事実である.そのために,諸君は材料の特性を理解し,最適な材料を選択し,設計図通りの形状寸法に加工しなければならない.材料も加工も「ものづくり」には必要不可欠である.しかも,材料・加工技術も日進月歩の進化を遂げていて,最新の情報を的確に吸収しなくてはならない.したがって「機械材料学」も「材料加工学」も,機械系課程に欠くことのできない授業の一つとなっている.
ロボットを作るにしろ,ロケットや人工衛星を作るにしろ,将来それらを設計する立場になる諸君自身が,その機械構造について十分な知識を持った上で材料や加工法を選択し,設計図に指示しなければならない.「熱・流体力学」や,「機械力学」,「材料力学」を駆使してロボット,ロケットや自動車を設計できたとしても,その設計図通りの形状に加工できなければ機械は作れない.
また,材料の特性を理解せずに形だけ作れたとしても,高温に耐えられず,あるいは振動による疲労により使用中に破壊してしまう危険性も残る.「材料や加工特性のすべてを理解した上でなければ機械の設計はできない」ことを十分に理解して欲しい.
材料選択の一例として,ロケットの全体像と各部分に使用されている材料を考えてみよう.ロケットを設計製造するには,Ti合金やセラミックスはどのような性質を有するのか? なぜその材料がその部分に使われているのか? 転位とは何か? 拡散とは何のことか? 自動車を,電子部品をつくる場合でも同様であり,剛性・強度など材料そのものの知識や性質知った上での加工技術の理解が是非とも必要となるのである.
機械材料として最も重要な鉄鋼材料の場合,準備され規格化されている材料は数百種類を下らない,なぜ,それだけの種類を用意する必要があるのか? それぞれの材料は,どこがどのように異なるのか? 何が原因で,性質が異なるのか? その性質は,後で熱が加わったり,力が加わったりしても,決して変化しないものなのか? 銅やアルミニウム,チタンなどの非鉄材料は鉄鋼材料とどう違うのか? 機械技術者としては,それらの性質,その原因,理由を十分理解した上で,設計中の部品にとって最適の材料を選択する能力を身に付けなければならない.
本教科書では,前半に金属,そして後半にセラミック,高分子・複合材料の順に配置した.この分類にしたのは材料の基礎となる原子の配列・相互の結合力がよく似ており,その機械的な性質がよく理解されやすいからである.したがって機械材料を使いこなすためには,材料の表面的な性質を知っただけでは,不十分であり,いわゆる原子構造とその結合,材料物性,材料科学の基本を理解し共通の「ものの考え方」を習得しておく必要がある.途中の金属材料に関する部分は,難しく感じる部分もあるかもしれない.しかし,「さまざまな条件によって材料の性質が変化する」ことを基礎的・統一的に理解し,深めるものであることを附言しておく」.
多くの機械工学科学生が材料にな親しんで欲しいと願い,機械関連の図や写真,コラム(雑談)を多く取り入れている.