早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
「先生はときどき『愚直』と言葉にされますがその意味がよくわかりません。調べたところ、『正直すぎて気のきかないこと。馬鹿正直な姿』とありました。しかし、それを想像することができません。どのような生き方が愚直なのでしょうか?」とある学生が相談に来た。 愚直とは今若者にもてはやされている「最小の努力で最大の効果を挙げる」とは正反対の生き方である。愚直も死語になってきたのかと一抹の寂しさを感じる。ものづくりは現場の真面目で正直な仕事の繰り返し・積み重ねであり、その結果世界で抜きん出た技術力に昇華した。要領の良さとか、抜け目のなさとは無関係である。私の年代はゆとり教育推進者から批判された「受験、受験の詰め込み教育」世代であったが、勉強する習慣だけは何とかついたことに感謝している。上司や先輩に「過去の文献を読み込み一度は溺れろ!そしてそこから這い上がれ!」と育てられた。一方、ゆとり教育では授業時間が少ないので「暗記」しない と短期間で大学入試に対応できない。数学も物理も暗記、高校物理の教科書には数式がめっきり少なくなってしまった。それでも物理を選択する学生が激減し、生物や化学など暗記主体の受験科目に流れる。数学の記述文章問題は暗記では太刀打ちできない。数学の論理展開力は国語読解力とも深く関連している。体系的な積み重ねに基づいた知識・教養を醸成する習慣が無くなってしまった諸君!徹底的に愚直に勉強してみないか!仲間で読書会を作ってじっくり基礎科目をやり直してみないか! 専門書を読み込んでみないか!著名人が語る講演に出かけてみ ないか!一生の内でこれほど勉学に打ち込んだことはなかった との思い出を学生時代に作らないか!抜け目の無さ(clever)よりも、賢さ(smart)よりも、愚直(foolishly)で行こう! Steve Jobs もスタンフォードの卒業式で“Stay Hungry. Stay Foolish” と言っているではないか!