早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
フランスの新幹線TGV は2007 年,在来線「東欧州高速線」で,大手アルストムが開発した「V150」型車両により,最高時速574.8㎞/h を達成した.試験走行ではあったが,不可能とされていた鉄道が500 ㎞/h 以上の速度を達成した意義は大きい.
一方,日本の東北新幹線「ALFA-X」では営業運転時速360km/hを達成し,さらに一時的に時速400km/h での走行も試験されている.このように,既存技術の新幹線の性能が革新技術のリニアに迫って行く勢いである.また既存航空機もLCC は,福岡⇒成田:片道10000 円,関空⇔成田:往復10000 円!と,在来新幹線料金すら追い抜いている.モトイズム「革新技術はなぜ失敗するのか? 2000/2/14(Mon.)」で述べたように,既存技術が革新技術に迫り,追いつき追い越す典型例である.
リニア―中央新幹線の技術的・経済的問題点を,以下に論理とデーターで検証してみよう.
1)ドイツのリニアのトランスラピッドは,採算性の点から開発・実用化を断念し,その技術は磁浮列車(常電導式)として,上海(龍陽)と空港(浦東国際空港)間アクセス線として採用された.中国もさらなる延伸を断念している.世界でリニア新幹線を採用する国は今後もない.
2)在来型新幹線(300km/h)に比べてリニア中央新幹線(500km/h)は4.6 倍以上の電力エネルギーが必要となる.
3)路盤には,アルミや銅などの推進コイルと浮上コイルを大量に使用し,構造物も高価な非磁性鋼板・鉄筋(Mn 鋼)など,高級素材・部材を使うため,膨大な建設工事費が必要となる.さらに,在来新幹線に比べ,直径1.3 倍の大きなトンネルが必要となる.また,ガイドウエイは100mm に囲まれた半閉空間に,mm 単位の精度で,不断に維持管理が必要である.
4)長大なトンネルが98%で構成され,自然生態系,地下水系,地域社会への大きな影響を及ぼす.今後工事進捗に伴い,更に費工事用がかさむと予想される.リニア実験線でも,トンネルから出た500 万m3もの残土の置き場に困っていた.さらに,名古屋までは東京ドーム約50 個分の5680 万m3もの残土の処分が必要で,処分場所が確定できなければ,リニアは頓挫する.
5)リニアは1000 座席(座席は2+2)であり,在来新幹線は1323席(座席は3+2),運転間隔(在来線は2~3 分)も,リニアは10 分以上あける必要がある.また,リニアは航空機のように手荷物検査や,シートベルトが必要となる.
6)時間短縮の効果は少ない.在来新幹線の東京を起点とすると,リニア品川駅で乗車するまで,山手線⇒品川⇒40m 地下のリニア品川駅⇒荷物検査後乗車まで,最低でも20 分は必要である.一方,名古屋リニア駅⇒名古屋駅まで10 分,したがって合計の乗り換え時間は30 分は必要となる.結局リニア新幹線40 分+乗り換え30 分で70 分,一方在来線のぞみ新幹線は80 分,リニアによる大きな時短縮効果は少ない.大阪まで延伸されれば,多少のメリットが生まれてくるが, 大部分トンネル内に押し込まれる
リニアでは,乗車する魅力がない.
7)南海トラフの地震発生確率は30 年以内に70%,50 年以内に90%と予測されている.未知の難問として強磁界の人体への影響,微気圧波,騒音問題が残っており,更なる工期延長と工事費増大が予測される.
8)リニアの運賃は在来新幹線の+1000 円,現在でも在来線乗車率は平均50%程度で,特殊な時期を除き輸送力には余裕がある.今後はテレワーク,人口減少で,更なる余裕が生まれる.在来とリニアを抱え,JR 東海は企業として存続できるのか? 私企業で運営できない場合は,国が税金で,これを支えることになるのか?
もう一度,「リニア―中央新幹線是非」を考え直す時期に来ている.
省エネ、経済性の観点からもリニア新幹線は時代に逆行しているように思えますが、超電導フライホイールを使った蓄エネ技術など、リニアから派生する技術の実用化には期待したいところです。