早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
私が入社した住金中央技術研究所の上司から「課題が与えられたら,関連する文献・専門書をとことん読み込め,それに溺れろ.そしてそこから一人で這い上がれ!」と指導されてきた.同時に「現場,現物,現実を見よ.事務所に宝物はない,現場(研究所であれば実験場,工場であれば操業場)へ出ろ!」と.
理化学研究所の大河内正敏は,「誰に聞け,何を調べろ,何を読め,というような手は駄目だ, 何もせずに黙って睨めて考え込む,今日うまい考えが出なければ,寝ていて考える,目が覚めたらまた考える,毎日同じことを繰り返せ」と指導してきたという.
TV に登場する刑事コロンボは「まず最初に殺人現場に行く,現場100 辺を地で行く.現場を見ながら考え抜く.その後関係者から状況を聞きまくる.この順番を逆にしない.
以上3者に共通しているのは「先入観を無くしてあるがままを見よ」である.工場で座り込む,立ちつくす, 機械と四六時中睨めっこをする,考え込む,数日後にまた見る・・・これだけ執着すれば夢に見る.夢に見るようになったら解決が近い.
ただし,基礎のない若手技術者が現場を一日中見ても町の発明家と同じで,素人を超えた発想やアイデアはまず期待できない.専門家としての発想の原点である基礎力・分析力が備わっていないからだ.理研の大河内の手法は基礎力や専門学力のないエンジニアには通用しない.
私は大学の入試で,数学のある問題がどうしても解けないことがあった.時間が迫る,焦る.だが,解けないまま試験は終了した.やれやれと,トイレに入った途端,パット頭の電気が点灯し,解が浮かび上がってきた.大河内は「どうしても解けないときは放っておく,そうすればある時,先人未発の機械装置が浮いて出てくる」とも語っている.