早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
入学おめでとう.20代の幕臣や公家,諸藩の下級武士であった勝海舟・岩倉具視・大隈重信・伊藤博文・大久保利通・西郷隆盛・高杉晋作・坂本竜馬ら,明治維新の志士となる40 名以上の若人が1865 年,ある先生の周りで一枚の写真に収まっている.その先生の名前はグイド・フルベッキである.真偽のほどは定かではないが話としては大変面白い.
彼は1830 年オランダに生まれ,機械工学を学んだ.22 歳で米国に渡り,機械エンジニアとして実践を重ねた後,宣教師として来日,1864 年幕府が設立した長崎英語伝習所,長崎の佐賀藩校で英語・政治・経済などについて講義した.この先生のもと有為の若人が参集,その後彼らは維新の志士として活躍したのはご承知の通りである.
翻って,20 代をこれから迎えようとしている諸君はこの志士と同じ立場にあることを次の3点から強調したい.
まず第1に,諸君らはいかなる「志し」で今ここに参集したのか?「自分はどのような人生を描いているのか,そのために大学で何を極めたいのか,卒業後はどのような分野で貢献・活躍したいのか」・・・身近なところでは1年後には学科選択,2年後以降に研究室選択があり,高学年になると就職先の決定が控えている.その起動力が「志し」である.「受け身の人生」から「志しの人生」に今,舵を切って欲しい.
第2に若いときにどのような師や友と出会うかである.たった2年間ではあるがフルベッキ先生に学んだ若人は世界の広さ,日本の危うさを痛感したことであろう.同時に一緒に学んだ友との信頼関係を築いたであろう.その後の歴史に名を刻んだ勝海舟と西郷隆盛,大隈重信と伊藤博文との信頼関係も,この学舎で結べたのではないか? フルベッキ先生と同じように学科選択後の研究室選びがいかに大切か,この一堂に会した写真から想像がつく.
第3に大いに本に親しんで欲しい.「本を読む」のではなく「本を読み込む」のだ.読み込むとは「本を暗記」することでなく「本を考え抜く」ことである.先人の偉業を追体験し,醸成することにより「自分なりの解釈・考え」が生まれ自立する礎が築ける.
このことに早く気がつくか否か,これが各自の人生の分かれ目になることを肝に銘じて欲しい.本日はおめでとう,そしてがんばれ!