早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
本日は早大理工学部の入学式.「住友金属工業から転じてこられた浅川基男教授」と記念会堂に集まった1700 名の学部新入生と院生・ご父母を含めた5千人の前で紹介され,感慨深いものがあった.式服をまとい,式典の挨拶を壇上で聞きながらつらつら考えた.
私が生まれ育ったのは,隣がブリキ屋,向かいは木型屋,裏は旋盤2~3台の家内工業が密集した東京の下町である.ブリキ職人が円筒の金具にブリキを木棒で押し叩き(曲げ加工),炭で熱した半田ごてで鉛棒を溶かしながら一体化し(接合)雨樋やバケツを作る様子は一日中見ても飽きることがなかった.裏の親父さんは天井を走るベルト車から旋盤を回し,黒皮丸棒をピカピカの部品に削り込む.切削油と鉄の切粉から舞い上がる甘酸っぱい匂いは「働く大人の香り」そのものであった(切削加工).
遊びのネタも豊富で,ベ-ゴマ(鋳鉄)のグライダ-がけ(研削加工),都電のレ-ルに釘を寝かせて造った手裏剣(圧造加工),下水工事の地下層から採り出した粘土細工(塑性加工),素焼きの型に鉛を溶解した飾物(鋳造加工),ビ-玉・拳玉(運動力学?)中学・高校では蒸気機関車足廻りの機能美とメカメカの匂いにとりつかれ,仲間と模型作りに熱中した.そして何のためらいも無く機械工学科を選んだ.
機械製図と工作実習・工学実験は高級な遊び道具であり,この上なく楽しかった.が,ほとんどの学生を置いてけぼりにして自分の世界に入ってしまう講義に失望した.こんなある時,力学系,電気系,液系,熱系の基本プロセスが,同じ偏微分方程式に支配され,工学にはアナロジーが大切との講義を聴いたとき,目から鱗が落ちる鮮烈な印象を受けた.そして「やはり大学はすごい」と自分なりに感心し,学問にも少しずつ目覚めていった.是非,私の経験した「ものづくりから学問への感動」を学生に共有してもらえたらなあーと思っている.