早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
早稲田大学基幹理工学部に入学おめでとうございます.数ある大学の中から早稲田を選び,数ある学部の中から基幹理工学部を選択された諸君の慧眼に心から敬意を表します.
早大理工は他の大部分の学部のように理学部と工学部を単に結びつけた名称の理工ではありません.大隈重信は「工を理する」を意味する理工科と命名し,「工を基礎から磨き上げる理が大切」と喝破していたのです.いわば基幹理工学部の精神そのものです.慶応大学理工学部の前身である藤原工業大学の初代学部長の谷村中将は,出身の軍から「すぐに役に立つ人材を出せ」と要請された際、「すぐに役に立つ人材はすぐに役に立たなくなる」と軍部を諫め,断りました.彼も基礎教育の重要性を説いた創立者でした.
皆さんの多くは,世の中で喧伝されている最も先進の研究をしたい,最先端技術の企業に就職し役に立ちたいと思い,早大理工を志願したはずです.その気持ちは大切ですし,いつまでも忘れないで欲しいと願っています.ただし,それを実現するためにも若いときの数学・物理など「理学」の研鑽が極めて大切です.役に立つ科目はいつでも勉強できます.まずはじっくり基幹理工学部で基礎教養を身につけて欲しいと思っています.
私は28 年間ほど企業経験をして早稲田に参りましたが,会社で一流の研究者・エンジニアの共通点は専門のみならず数学・物理などの基礎教養の深いことです.したがって,例えば,機械系の部署から材料系,電気電子系,システム情報系と部署が変わったとしても1年もたたないうちにその職場に慣れ,仕事ができるようになります.それは若いうちに基礎教養を研鑽していたからに他なりません.現在の企業では技術の組み合わせだけの商品開発は限界に達し,物理の根元まで立ち返らないと世界に太刀打ちできる新商品は生まれないと言われています.
基幹理工学部は1年次で,文系科目も含めた基礎教養科目に真剣に取り組んでおります.またこれらは若いときでないと身に付きません.私も3月末で退職致しましたが,若いとき不勉強であった数学・物理をもう一度勉強し直そうと思っております.それが楽しみでもあります.皆さんのご研鑽を期待しています.本日は誠におめでとうございます.