早稲田大学 名誉教授 浅川基男
asakawa@waseda.jp
総合科学技術会議では日本の将来に向けて重点分野に絞った研究開発を志向している。
IT(情報通信)、バイオ、ナノテク、ライフサイエンス等々である。この夏に生産学術に関与
している官僚、独立行政法人の研究者、それと大学・企業の関係者と二泊三日の合宿を行い、
生産学術の戦略を議論した。しかしそのときの中心課題は「なにをやるべきか」ではなく
どうしたら COE や研究費がとれるかに集中していった。官僚や国の研究者は新コンセプトや
企画を追い求め、財務省受けする予算化に関心を払う。たとえば「IT は既に手垢が付いて
いる、バイオも疲れ気味、ナノテクも来年でそろそろ幕引き、残るは高齢化・福祉の
キーワードか?」等と続く。議論している本人もこんなことで 21 世紀に 1億の日本人を
食べさせていけないことは百も承知である。どんな言葉の響きが受けるか、どうすれば
取りあえずの予算が確保できるかが本題になってしまう。多くのまじめな研究開発者が日頃
使い慣れない IT、バイオ、ナノ、環境、福祉をちりばめた言葉でCOE や科研費の申請書を
書き続けているのが現状であろう。
自動車が関連産業も含めて 40 兆円、鉄鋼が 20 兆円である。しかしこの分野は国からの
助成に頼らず、今でも日本の国力と日本人の雇用を支えている。鳴り物入りで国の助成を
受けた半導体設備関連は 1 兆円付近でふうふう喘いでいる。先端技術(ハイテクノロジー)で
1 億人の日本人は食わせることはできない。新幹線も航空機も宇宙も技術者の本音はロー
テクノロジー(後端技術)の着実な積み重ねであることを知っている。産業経済界のバブルは
十年以上前に収束したが科学技術の研究開発バブルは、まさにこれから始まろうとしている。
ごまめの歯ぎしりかもしれないが「ものづくりを愚直に継続すること」が最も大切と
考えている。
さて、この合宿で「愚直なものづくりセンターの設立」を提案したところ多くの賛同者が
現れた。日本も捨てたものではないと実感したものである。