早稲田大学 名誉教授 浅川基男
asakawa@waseda.jp
サバティカルから帰国して間もないある日学部長から「英語に詳しいだろう」との誤解(?)
から英語教育実行委員会の改革委員長に指名された。引き受けた以上は短期決戦で改革すべく
動いた。委員会は計7回、約 20 時間以上の審議および見学と懇談会を重ねてきた。
「着眼大局,着手小局」すなわち「志は高く掲げる」スタンスは崩さず、かつ「実行可能な
具体策」から始めて行くことを基本的な施策した。英語教育を従来の「教養としての英語」
から「理工系の技術としての英語」すなわち「理工系論文の読解、論文作成、講演会・国際
会議などで使える実践的英語力」を養う方向に大きく転換することを目指す。したがって、
専任教員はネイティブで理系の博士号を持ち、日本語に堪能な若手を公募した。この方針は
今までの教養英語の教員との軋轢を生じた。しかし、ねばり強く説得した。
具体的には、
1:英語による教科書、専門書、論文、文献等が理解できること
2:英語によるプレゼンテーションや講演が理解できること
3:英語による要旨、小論文、論文等の文書が書けること
4:英語によるプレゼンテーションや講演が行えること
5:英語による日常のコミュニケーションが行えること
を目標とした。
5「基礎英語」は理工系論文の読解、論文作成、講演会・国際会議などで使える実践的英語力
の養成を念頭に、その前段階である英語基礎力養成を重点に置いた。リスニングのみならず
グラマー、リーディングを重視、TOEFL-ITP などを利用し、それをクリアするまで繰り返し
履修可能とする。
6「専門英語」は TechnicalReading & Writing の英語力向上を目標とする。例えば、理工系
原書、文献の読解・要約、理工系論文の論理構成と文法、表題・要約・本文・図表等の書き方、
さらには Technical Presentationの口頭発表方法などである。非常勤講師による多人数教育
形式とするが、非常勤講師を補佐するトレーナー(インストラクター)は博士課程学生、助手、
英語圏留学経験者他から常時採用する。
後日談:本改革は既存の「教養英語」を壊し、全く新しい「役に立つ理系英語」に転換するため、
英語教員人事を含めて大きな改革となった。これはひとえに各学科が理系英語への転換を
サポートしてくれたこと、および当時の学部長がぶれることなくしっかり支えてくれたことが
成功の鍵であった。この改革に一番喜んだのは学生である。私個人としても学生の海外発表
への負担が軽減されたことにも感謝している。