早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
早大で材料系学科が消失して4年以上が経過した.これを踏まえ早大とそのOB,物質・材料研究機構(NIMS)の共催で第1回産・官・学による材料シンポジウムが大久保キャンパスに新築された63 号で開催された.早大総長はじめ東大,東工大,鉄鋼協会,金属学会,NIMS,経産省,東京電力などの主要な団体の会長・理事など蒼々たるゲストを含め教員・学生・OB ら250名の出席者を得た.
背景に社会基盤を支える材料の革新がなければ成熟社会を継続的に維持発展させることができないとの危機感がある.昨今はこのような社会基盤を支える材料技術に対して若い人材がその必要性を知らなかったり,関心を失ったりして大学への入学,産業界への就職を志向する学生がめっきり少なくなっている.
産業界における生産力や技術力の衰退は,まず優秀な人材がその産業からフェードアウトすることから始まる.米国の鉄鋼業は,秀でた若人が鉄鋼産業に興味を失い,金融・生命・IT 産業にシフトしはじめた時点から衰退が始まった.
早大の材料系学科も2000 年ごろから次第に学生が集まらなくなり,合格ラインも各学科の後塵を拝するようになってしまった.続いて学科の先生たちが生命・物理・化学など,より学生が集まりやすい学科に移り始め,教員の補充を繰り返したがついに消滅に至った.
日本のものづくりが自動車や電子電気機器の「組み立て産業」から,「高度な素材・部材・部品産業」へシフトし,ものづくり輸出の7割を占めている.この大切な時期に,材料系学科が無くなっていいとは誰も考えていない.自らの内部事情で消滅した「自損事故」であり.自損は自ら修理して直す必要がある.
本シンポジウムの最後に「①早稲田が材料の先導的な役割を果たすようを期待したい,②早稲田の進取の精神を生かした基礎から応用までカバーする魅力ある学科を再構築して欲しい,③理想の光あふれる産学官連携のモデルの実現を願う」と締めくくられた.素材産業に脚光が当たっている今,周囲からの期待は高い.「さあ,どうする早稲田,どうする材料!」