早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
草食系男子については,このエッセーでも既に紹介した.2005年京大の中西輝政氏が「最近の若者を見ていると,とにかく途方もなくやさしいのである.とりわけ男性のやさしさは気持ちが悪くなるほどである.草食動物が互いに傷を舐めあっているようにしか思えない」と指摘したのが最初と思われる. 2008 年森岡正博が『草食系男子の恋愛学』において,「草食系男子とは、心が優しく、男らしさに縛られておらず,恋愛にガツガツせず,傷ついたり傷つけたりすることが苦手な男子のこと」と再定義した.2010 年吉川尚宏は『ガラパゴス化する日本』の著作の中で,日本製品,日本国,日本人がガラパゴス化しているとして,日本人のガラパゴス化とは「最近の若い人のように,外に出たがらなくて,大人しい性向のこと」と述べている.
私が属している男声合唱団も,繊細で女声合唱のようなフレーズ,メロディーの選曲が多くなり,かつての大学グリークラブが愛唱した男の逞しさを前面に,しかし優しさを表に出さすことを憚る曲は姿を消しつつある.
あるジェンダーフォーラム講演会「男性・性の変容」に参加してみた.女性陣から手が挙がり「草食系男子は現代男性の望ましい人間像」との意見があった.「女親としては理想の男性像,自己主張しないで周囲に合わすので社会の調和に役に立つ,戦争に引き込まれない」などの見方が続出するほどである.出席した男性からも草食系男子肯定論の発言があり腰を抜かすほど驚いた.米国暮らしが長い若い女性から「米国では草食系男子の実態もないし議論すら起きていない」とコメントがあったことが唯一の慰めであった.
若い女学生に「最近の草食系男子をどう思うか?」と聞いたところ,「肉食系男性を知らないので草食系男性の意味がよくわからない」との答えが返ってきた.草食系男子はいよいよ日本の望ましい男性像として定着化してきたと見るべきなのだろうか?