早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
米国には英会話ができない外国人のために、無料の英会話教室 が至る所に設置されている。地域に密着したコミュニティ・カレッジが場所と先生を提供し、国や州が費用を出している。マイノリティの外国人が英会話能力不足のため職を失い、結果としてコミュニティの治安が悪化することを予防する意味が大きい。 英会話能力により3クラス程に分けられ、1クラス10人前後で、人種も国籍もいろいろである。従って、発音・アクセントはもちろん、英語教育履歴も違い、生徒同士の会話も手探り状態となる。「週末はどう過ごしたか」との先生の問いに「マイ・バース・デー」と答えたので「ハッピ・バース・デー・ツーユー」と全員で合唱したところ、それは「マイ・バード・ダイ」の聞き誤りであり,笑うに笑えないことがしばしば起こる。
さて,その中で先生の教え方を紹介しよう。まず、「生徒に愛着を持つ」「生徒を飽きさせない」「日常会話に徹する」の三つに集約される。先生は生徒全員の名前をファーストネームで覚え ている。私はヒヤリングが特に弱いので、いつも先生がそのことを気にかけて、「モトー、役に立っていますか?」と授業が終わるたびに確認しに来る。私だけでなく、全員の生徒に声をかけている。自宅から、小道具を持ってきて、本日の会話の場面を表情豊かに、楽しそうに演出する。次から次へと話題を提供し、質問を誘い、飽きさせることがない。質問とその答えの連鎖ですぐにクラス中が賑やかになる。会話の中味は日常の衣服の選び方、買い物の方法、広告の読み方、新聞のヘッドラインの解釈、旅行・ホテル、そして礼儀作法から米国史迄に及ぶ。早大生の学識であったら、半年程で日常会話なら困らないくらいに能力が高まるだろう。「先生」という役者になりきり、いかに生徒をインカレッジし、英会話を習得させるかに専念している。
国策とはいえ、こんな役に立つ英会話を、それも無料で提供してくれる先生と米国社会に感謝の気持ちで一杯である.