早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
このたびは皆さんと一緒に大学を巣立つことになりました一コマ7千円で皆さんにおなじみの浅川です.これから就職する方、進学する方に産業界を28 年経験した先輩として一言贈る言葉を申し述べたいと思います.
会社で多くの仲間と仕事をしてきた経験から,会社員は3つのタイプに分類できます.まず「半人前の人」,次に「一人前の人」,そして最後は「一流の人」です.半人前の人は往々にして「半人前である」との自覚がないため,会社生活を閉じるまで半人前で終わることが多々あります。「一人前の人」とはとりあえず右から左へ仕事がこなせる人です。大部分の会社員はこのタイプです。それでは一流の人とはどのような人でしょうか? 私は「仕事や技術を原理原則まで突き詰め本質を捉えることができる人」と考えております.
皆さんに実感でできるように学生時代の「材料力学」の学習事例で考えてみましょう。最も基本的な「応力」と「荷重」の区別ができない人は「半人前」,あるはそれ以下かもしれません。「応力」を「荷重を断面積で割った値」として理解する人は「一人前の人」に近いといえるでしょう.一方,「応力をテンソル」,「荷重・断面積をベクトル」とらえ,スカラー・ベクトル・テンソルの物理量として常に俯瞰して捉えることができる人は「一流の人」に近いといえるでしょう.
会社の仕事も同じです.一流の人になるためには技術の原理・原則に遡る研鑽が必要となります.例えば週末に90 分だけ自分の研鑽の時間として費やしたとしましょう.15 週,すなわち3ヶ月強で大学の一科目分が習得できるのです.1 年で3 科目分に相当します.3 年経てば10 科目を超える研鑽量になります.そうなれば仕事は良い方向に循環をします.まず,その分野の造詣が深くなるので成果を挙げられるだけでなく,技術の本質を捉えることができるため仕事仲間からの相談に的確に答えられますし,社内の信頼も高まります.こうなると仕事が楽しくなり,月曜日の朝が待ち遠しくなります.
最近では仕事と私生活を峻別させ,仕事は生活の糧を得る手段と割り切る人がおりますが,大変もったいないと思います.仕事はつらいことも多いですが,人生で最大の充実感を与えてくれるのも仕事です.1回かぎりの人生です.皆さんにはまず「一人前の人」,さらに「一流の人」になって人生をエンジョイして欲しいと念願します.
手帳に貼ってあるはずの「鉄鋼の平衡状態図」の下に“一人前の人と一流に人”とメモっていただけたら幸いです.ご卒業おめでとうございます.ご静聴ありがとうございます.