早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
民間を含む研究開発費の世界首位は米国で5490 億㌦(約60 兆円).中国も4960 億㌦に達する.日本は1709 億㌦で米中の3 分のl である.もはや資金力の差は埋めようがない.
日本には技術を見極める目や,投資の決断力を持つ司令塔が見当たらない.文科省の立ち居振る舞いも大切だが,文科省の決定権は財務省にある.その財務省には,理工系の本質や,ものづくり技術を支援する人材がいない.国立大学協会会長の山極京大総長と財務省幹部とが激論し,「重点配分主義は流行を追いすぎている」との批判に対して,財務省は全く聞く耳を持たず,「国立大学の運営費一律削減は信念をもってやっている」との発言に,びっくりした. 「引抜き技術」で筆者も競争的資金・科研費を申請したことがある.数回の採用不可の後,思い切って「ナノ」とか「ピノ」とか「ポニョ」とか,使い慣れない当時流行の単語を散りばめ,自分でも恥ずかしくなるような申請書に書き直したところ,やっと通った経験がある.
大学の評価について,注目研究重点主義で決める弊害は極めて大きい.若い研究者は現在流行中の,短期的に成果の出やすい研究に走りがちである.研究費の“選択と集中”をやめ,研究費配分は個々の大学に任せ,大学ごとに特色ある研究・教育に戻すべきである.多くのノーベル賞受賞者がこの点を強く指摘をしているが,財務省・文科省の対応は鈍い.誤解を招く表現だが,「下手な鉄砲,数打ちゃ当たる」が,長期的に見れば,最も確率高く,優れた結果が得られる方法であると著者は信じている.