早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
6 月末,JR 東海・金子慎社長および国交省の事務方トップが静岡県内の工事着工を,川勝知事に直談判し,物別れに終わりリニア―中央新幹線が少しだけ,注目を浴びた.「アルプスをトンネルで貫通する計画だが,そこには中央構造線断層帯や多くの活断層が走っている.工事による大井川水系の減少は2.0m3/sと予想され,大井川の平均水量の6.5%に相当する.JR 東海は,ポンプアップ+導水路によって湧水を大井川に戻すとしているが知事は納得しない.川勝知事は,元早稲田大学教授で,学内でも論客で通っており,彼を論破するのは容易ではない.
2011 年の3.11 の2 カ月後,国はリニア中央新幹線整備計画をあわただしく決定した.それを踏まえ,浅川研究室の4 年生を「リニア中央新幹線」賛成派3 人と反対派3 人に分けて,ディベートさせた.その結果,賛成派はほとんど反対派に論破されてしまった.翌年も同様な結果であった.なぜなら,推進賛成派は技術的,経済的にも反対派を反駁し,説得しうる論理やデータを持ち合わせていなかったからである.理工系教育の真髄は論理とデーターで「ものを語る」ことにあるからだ.
1962 年,国鉄時代からリニアの開発がスタートし,国鉄の分割民営化後JR 東海と鉄道総合技術研究所が開発を引き継ぎ,宮崎実験線,そして山梨県に実験線を建設するに至っている.
1970 年代,私が住金・小倉製鉄所にいた頃,通常の鉄筋より数倍高い価格の宮崎実験線用非磁性鉄筋鋼の受注があった.当時の国鉄は「これが実用化したら大量の発注があるから,実験線用鋼材は安くして欲しい」との要請があったが,当時の小倉の幹部は「あれは実験線だけで終わるから,実験線だけで儲かるようにせよ」と決めたことを覚えている.リニアはペイするはずがないとの意味だ.
リニア中央新幹線は,総工費9 兆円で品川~新大阪を結ぶ計画であり,名古屋までに5 兆5000 億円が投じられる.実際には,この倍近くの費用が発生するのが大型プロジェクトの常である.名古屋まで開通する2027 年には,JR 東海の借金は5 兆円に達する.2013 年の記者会見で,当時の山田佳臣JR 東海社長自身が「リニア計画は絶対にペイしない」と答えたほどである.
JR 東日本の松田昌士元会長は「歴代のリニア開発のトップと付き合ってきたが,みんな『リニアはダメだ』って言うんだ.やろうと言うのは,みんな事務屋なんだよ」と.高価なヘリウムを使い,大量の電力を消費しながら,トンネルを時速500km で飛ばすと,ボルト一つ外れても大惨事になる.「俺はリニアは乗らない.だって、地下の深いところだから、死骸も出てこねえわな」と付け加えている.
リニアの必要性にはどんどん疑問符が付いてきますが、今のJR東海に止められる人はいるのでしょうか?