早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
米国からドイツの西端にあるアーヘン工科大学の金属加工研究所で在外研究を継続している。まず、こちらの教育制度を紹介しよう。6才からの基礎学校4年、6年間の中等教育Ⅰ、3年間の中等教育Ⅱ(ギムナジウム)を終えて19才で大学に進む。殆どが国立大学で授業料は無料である。大学進学率は 20%前後と日米に比較して少ない。これはドイツでは専門職(マイスター)を大切にする風土があり、必ずしも学力だけが人生を決めるものではないとの常識があり、実業学校で専門技術を身につけることが社会的にも評価されている。大学資格試験をパスすれば医者や弁護士になる学部を除いて原則として希望する大学に入学できる。ドイツでは大学院と学部の区分は無く、最低5年の修学期間が必要である。1年近くの兵役義務や研修期間、さらに大学は研究重視の傾向があり、標準在学年数を越える学生の数が多く6~7年かけてディプロマの資格を得るのが通常である。この資格が日・米の大学院修了資格に相当する。博士号取得は、さらに2年から5年かかる。ドイツでは「町のパン屋さん」から「高級エンジニア」に至る まで一度は実際の職場で働きながら研修することが義務づけられている。これにより勉学の動機付けと就職が学生時代に体験できるメリットがある。入学は容易だが卒業は難しい。
私の所属する科ではディプロマの資格を取れる学生の比率は約50%以下である。すなわち半数以上は途中で進学をあきらめざるを得ないほど学業評価が厳しい。大学も学生を卒業させることには無関心である。勉学の機会だけ与え、卒業は自分で勝ち取れとのスタンスである。工学系の研究は実学指向で教授は産業界を5年以上経験していることが絶対条件である。産業界の大学への信頼も厚い。教授がいかに多くの研究資金を大学に産業界や国、州から導入したが重要な評価ともなっている。ドイツに来て初めてあるべき大学の姿の一端を垣間見た思いである。