早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
米国は繊維・鉄鋼・家電・自動車・ハイテク製品等多くの工業製品で日本・ドイツなどの製造業に敗退、または自らその席を譲 ってしまい、むしろ重点を金融やバイオ・ナノテクノロジーを中心としてハイテク・情報産業にシフトしている観がある。私の実感としても、街で見る米国乗用車の半分は日本車で占められている。タクシーのドライバーがいみじくも「日本車はほとんど故障しないのに、米国車はいつもガレージで行きだ!」と嘆くまで、日本の製品や企業への高い評価は庶民層まで染み渡っている。しからば、その研究・教育機関である米国大学の「ものづくり」はどうなっているのだろうか?
私の第1の印象は、伝統的な物理・数学・力学,実験・実習などの基礎科目を、想像以上に真面目に教育していることに驚き、感心もした。例えば留学先のリーハイ大学だけでなく、訪問した マサチューセッツ工科大学、また英国のケンブリッジ大学等でも、機械系学生に、機械工作実習・電気実験・材料試験等を古い設備ではあるがしっかり教育している。全ての先端研究は基礎教育からスタートするとの考えが滲み出ている。最近、日本の大学では機械系学科も、旋盤や手書き図面に触れたことがないまま卒業する学生が多くなっている状況とはほど遠い。
第2の印象は多くの「ものづくり」関連の大学は、欧米系以外の中国・インド・東欧系の人々で占められている。特に中国系の教授は学科長や、米国学会の会長など枢要な地位を占めている。留学生も日本人は少なく中国(台湾)、韓国、タイ、マレーシアのアジア系の学生が圧倒的に多い。従って、米国の製造業や、研究所も中国系米国人が活躍する機会が多く、米国の「ものづくり」を底辺で支えている。
一方、米国では日本製品や企業名は随所にあるが、日本人そ のものの存在感は殆ど感じられない。製造業の危機が叫ばれて久しい日本では、誰が「ものづくり」の大学や、製造業を支えて行くのであろうか。