早稲田大学 名誉教授 浅川基男
asakawa@waseda.jp
私は社会人対象の講義や研修を学会の講演会や企業に招かれて毎年担当してきている。
聴講者は 20 才台後半から 30 才台までの場合が多い。不謹慎の誹り免れないことを
承知で言うと、大学での講義に比べ格段に楽しく、充実し、刺激的で、緊張感があり、
かつ大いに勉強になる。終了後も講義で示したサンプルを覗きに来たり、質問が絶える
ことがない。質疑応答は次への講義準備の肥やしになるし、時には出席者の企業と
共同研究に発展したこともある。
彼ら社会人もちょっと前までは学生であったはずである。なぜ社会に入ってからこうも
受講態度が変わるのであろうか?「大学の講義が多人数のため」との指摘もあるが、私の
経験によれば10 人前後の学部3年ゼミでも大学院1年の少人数講義でも無反応、無表情、
無質問の受け身的な傾向は変わらない。教員になって7年、毎日この砂を噛むような味気
ない講義のあり方を反芻・反省してきた。そして私なりに「学生の勉学に対する
インセンティブの欠落」との当たり前の結論に達した。将来の目標、職業観、使命感が
あれば、どの科目を選択し、何を捨て、どこに力点を置くかが見えてくるはずである。
それでは今の豊饒な学生に「勉学の動機付け」を植え込むにはどうしたらよいだろうか。
将来の目標や勉学意欲の高いアジアの留学生を多く招くことも一案であるが、昨今は優秀な
学生は日本を素通りしてしまう。解決策の一つは学部・大学院の半数近く、いや三分の一
でもよいから勉学意欲の高い社会人で教室を満たすことであろう。
ただし、基礎教育を横に置き、勉学の動機付けに過剰反応し、学生の興味におもねった
「おままごと」もどきの教育カリュキュラムへの変更は、今の「ゆとり教育」の二の舞に
なる危険性があり、厳に慎むべきであろう。