鳴海(Hon Hai)精密工業をご存じであろうか。売上高3兆円、営業利益2千億円、年率30%の成長をしている台湾の新興企業である。電子産業を席巻している典型的なEMS企業で数百万台のiPodも現在受託生産している。一方、日本のS社は高性能で小型な電子機器を武器に、戦後日本を代表する超優良企業に成長した。しかし、部品やものづくりの工場をEMS 企業に外注・委託を進め過ぎ、結果的に工場の技術力や技術者の意欲を低下させることになり、創業以来の厳しい経営が続いている。台湾企業である鳴海の好調と日本企業であるS社の不振が好対照である。戦後、欧米から技術導入した昭和30年代、日本の研究技術者は歯を食いしばって材料・部品から国内で生産することにこだわった。台湾や中国は素材や部品を外部から購入し、現地組立ての技術を導入する「組立てものづくり」である。日本は「材料・部 品ものづくり」である。この違いは大きく、材料や部品を核としたものづくりへのこだわりこそが基礎・基盤から日本の産業を飛躍的に発展させることに繋がった。ものづくりは料理とよく似ている。
研究・技術者は調理するシェフであり、素材は食材である。シェフと食材が両立しないと美味い料理はできない。料理の腕も突き詰めれば「材料(食材)と 加工(調理)」で成り立っており、容易に他人がまねできない。結局、素材がよく腕の良い料理店に人は多く集まる。鳴海の利潤は日本のオリジナル技術から生み出されている。S 社も経営陣が交替し、再度国内の製造工場とものづくり技術者に焦点をあて直している。材料と加工は日本の「ものづくり」の核心でもある。その生産技術を「日本発」としている限り、日本は世界をリードできると確信している。
しかし残念に思うことがある。なぜ数年の間に数兆円の規模に発展し大きな利潤をあげるものづくり会社が六本木ヒルズあたりで、生まれないのであろうかと。