早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
学術交流の目的でこの夏に韓国科学技術院(KAIST)とソウル大学を学生と一緒に訪問した.韓国はシミュレーションの解析(仮想ものづくり)などで秀でた大学研究がある.その背景をこの目で確かめることも一つの目的である.
両大学とも戦後,韓国政府の強い指導力で設立され,無地のカンバスに絵を描くように理想的な場所に世界トップクラスの設備や人を集めて大学を設立した.その成果がようやく開花し始めた段階である.
科学技術院は約4百名の教員と学部生・3千名,院生・2千名弱,博士課程とポスドク(博士取得後研究者として継続嘱任)・2千名強で構成されている.早大理工のキャンパスと比較すると,学生数で0.7 倍,建物面積は3 倍,博士が6 倍,敷地面積では30 倍の違いがある.
教授陣の9割以上がMITやスタンフォードなど米国の有力大学出身者で構成されている.英語はもちろん日本語,フランス語などにも不自由しない先生方が多く,エレベータで流暢な日本語で挨拶されびっくりしたこともある.当然大学運営も米国式である.例えば研究の担い手が日本では修士学生が主体だが,欧米では博士課程の学生である.ソウル大学も同様である.
立派な応接室で教授に歓待された後,ゼミ室に案内されると10 人ほどの博士学生が起立して迎えてくれる.茶髪もピアスも帽子も居眠りもない(当たり前ではあるが・・・).
さて欧米や韓国の先生方と交流してつくづく感じるのは日本の産業力,特に「ものつくり」レベルの高さである.韓国でも大学研究の質や先進度(仮想ものつくりなど)は日本と同等かそれ以上の部分もある.しかし,日本の大学には産業界の高い技術力と仮想でなくリアルな製品化力に裏打ちされた基礎学術力の強みがある.私たち大学教員が基礎研究のみならず地に足のついた応用研究を展開し,世界に飛躍できるのは産学の産の力とその連携であるとしみじみ感じた韓国訪問であった.