早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
この9月にポーランドのワルシャワ旧市街を訪問する機会を得た.第二次世界大戦中ドイツに徹底的に破壊尽くされたが,ワルシャワ市民はわずかに残った資料や写真を基にこの廃墟を寸分違わない元の建物と街区に復元させた.その一角にある歴史博物館に展示されている破壊前の写真と実物とを見比べながら,戦後の貧しい時代にこの街を復元した市民の熱意と民度の高さに深い感動を覚えた.
お伽の国のようなドイツのローテンブルグも戦後の荒廃から再建された街であり,在外研究で滞在したアーヘンも千年以上の永きにわたり建物や街区が生活の一部として保存されている.若い音楽家がクラシックを奏でたり,老夫婦が散策する味のある古都である.わずか2百年の歴史の浅い米国のフィラデルフィアさえも,建国の歴史を慈しむかのように建物を保存している.
翻って我が日本の街並みはどうだろうか.京都・奈良の寺社仏閣,萩や倉敷,白川郷,郡上八幡の集落などのように点を拾ってみれば素晴らしい景観が保存再建されている.しかし,ヨーロッパのように面に至るまでは残されていない.明治初めまで残っていた瓦と漆喰の壁による単純で美しかった江戸大手町付近にあった大名屋敷が今では皆無であり,近代的というよりも30年ごとに建て直される消耗品と瓦礫に置き換えられてしまった.特に東京の旧街道沿いは電信柱と電線が乱雑に絡み合い,そこから突
き出した乱杭状の色さまざまなペンシルビルの醜い景観にやり切れない気持ちで一杯になる.
景観はその住民の民度を示す.江戸時代に訪れた欧米人が驚嘆した日本人の民度をもう一度我々の世代で取り戻そうではないか.