早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
文科省が1977 年から始めた「ゆとり教育」の結果,今は小中高校の学習時間が当時の半分近くに削減されてしまった.日本の大学も世界の一流大学における学習時間の半分ほどである.米国では1960 年代初頭から「教育の自由」「ゆとりの中での自己決定」「選択科目の比率増大」路線を歩んだ結果,秩序のタガが外れ教育の荒廃を招いた.そこでレーガン政権が教育改革を実行し,「基本に返れ(Back to Basics)!」を推進してきた.
大学はゆとり教育の付けが廻ってくる最後の関門である.産業界では不良品が発生したらすぐさま引き取り修理するか,新品と交換するのが常識である.一方,教育界では品質不良の学生を出荷しても社会から今のところペナルティを課せられることはない.もちろんここでいう品質不良学生とは学習や単位が足りないことに限定された比喩の意味である.
私の目から見ると,ざっくり言って50%の学生は4年間で卒業できる品質に到達しているかどうか怪しい.他の国立大学の先生にヒヤリングしてみても大同小異である.
大学はもっと卒業資格を厳格にする必要がある. 昨今,就職試験で「学校推薦」の学生が落ちてくる傾向が増加しつつある.某メーカが,「工学系の学生たるものこれだけは履修してほしい」と履修すべき専門科目を製造所ごとに大学に突きつけたことは,大学教育への警鐘でもある.
このようなシグナルをいつまでも見過ごしたら,次第に日本の大学から人材を求める声は消え去り,外国から優秀な人材を調達するか,あるいは品質不良学生の返品の山が日本の大学に溢れ返るかもしれない.