早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
企業が要求する学生像は毎年同じで「元気がよく明るい学生」,「前向きで何事にも積極的」にはじまり,「この業界を選択した背景は」「その中から当社を志望した理由は」さらに「当社で何をしたいのか,どう貢献できるか」と畳み掛ける.しかしこのような意欲満々の人材は韓国,中国,発展途上の東南アジア諸国に行かないと見つけられない.
今の日本の学生はおとなしく素直な反面,人生の真っ向勝負を避け,諦観思想すら漂わせている.何となく大学生になり,その日その日の課題をこなし,自分の思想や哲学,将来の夢を探索するよりも,安穏で楽しい毎日を過ごしていたいのが本音であろう.いざ学部4年,院の2年生になり就職活動に直面しても自分が何をしたいのかわからない.私の経験によれば大学1,2年生のときに自分の進路を真剣に考えたことのない学生は,その思考が停止したまま就職シーズンを迎えることが常である.したがって,食品会社と鉄道会社,ソフトウエアーと重工業,石油業界とゼネコン等々,全く無関係の組み合わせから自分の進路を場当たり的に選ぶことになる.専門教育を担当する教員としては「エンジニアリング教育はどの業界でも通じる」と慰めているが,教育と現実の空しいミスマッチをひしひしと感じる.
日本の大学は入学時に「何のため大学に入学したのか」「卒業後はどのように社会貢献をするのか」「そのため何を学びたいのか」を学生に問いかけることはなかった.就職に社会人としての適性検査があるように,大学進学を志す若者に大学人としての適性検査が必要かもしれない.
講義のたびに「諸君らは何の目的で,どのような学問を求めて今この席に座っているのか」と問うことにしているが反応がない.ただし,企業からも「君は大学で何を学び,どれだけの学業を積んできたのか」の問いかけも幸か不幸か少ないため,表面的には至極スムースに就職活動が進行している.