早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
企業から一昨年赴任したT 大の先生が卒業判定会議で「単位不足の学生を留年させたら『T 大に在籍していたこと自体に卒業の価値がある』として先生方が卒業させてしまった」と嘆いていた.
単位を落としながら「本人はがんばると反省している」「すでに就職が決まっている」「他大学への進学が内定している」との理由から目をつむって進級・卒業させてしまうケースが桜の季節に繰り返されてきている.私が企業でリクルータを担当していたときも,優秀な人財もいるが,大学生かと疑うばかりの人罪も卒業証書を手にして入社して来る.
K大学は高校・大学とも1学年は2年までと定められ,学生は常に勉学せざるを得ない環境に置かれている.企業側からも「危ない学生」が少ない大学の一つと評価されている.TK 大も4年の研究室配属条件が厳しく,ほぼこの段階で学力不足の学生は淘汰される.
実際は過年度生(留年)になると先生方もゆるゆるの基準で卒業させることがある.その結果,迷惑を被るのは企業であり社会である.もともとは学生の責任とはいえ,そのような大学の仕組みと先生方の教育評価のあり方に多くの問題を残している.緩くすれば緩く,厳しくすれば凛とした態度で行動するのが若人の特性である.
大学の施設,大学院・学部の新設などの器作りも大切だが,大学はもっと「日常の教育の充実とその評価」に力を注いで行くべきである.昨今よくマスコミを賑わすように,ラベルの表示や品質保証書とかけ離れ,中身が劣化した商品を販売し,社会から糾弾された悪徳企業と同じようなことに早大もなりかねない.
桜の季節は期待を膨らませた新入生を迎える慶びと同時に,留年を学生に納得させる憂鬱な季節でもある.