8月の中旬,米国デトロイトを大学院の学生とともに訪問した.自動車のボディーを成形する3年に1回のコンピュータ・シミュレーション国際学会に出席するためである.この分野は,今も日本と欧米が先端を競っている.
デトロイトは米国のビッグ・スリーといわれる自動車企業の拠点地である.しかしGM本社のある市中心部にかつての繁栄は見る影もなく,人のいないビルや建物を撤去した空き地が多くなっている.ショッピング・センターや,主要企業の事務所もタクシーで30 分以上要する郊外に移ってしまうほどドーナツ化現象が始まっていた.
GMの工場現場では,エンジニアや作業員がよく働いており,生産技術や管理もしっかりしており,必ずしもモラルは低くないとの印象を受けた.一方,クライスラーの本社・テクニカルセンターでは,ペンタゴンに匹敵する建家面積,劇場やホテルを想起させる豪華な空間や施設がある.ものづくりで大切なのは一にも二にも現場・現物であり,その資金をもっと工場につぎ込むべきであろう.
米国トヨタの幹部や商社駐在員は米国の自動車産業の再生にかなり悲観的である.米国鉄鋼業は20 年ほど前から,日本の製鉄会社が総力を挙げて支援してきた.しかし上工程から下工程までの「摺り合わせ型ものづくり」に馴染めず,少し景気が良くなると元のやり方に戻ってしまう.この繰返しにうんざりした日本の鉄鋼業は,数年前に完全に米国から手を引いてしまった.
自動車も鉄鋼業同様これからビッグ・スリーへの日本の支援が拡大されるだろう.しかし,日米双方にとって好ましいことではないが結局は日本や韓国の米国現地企業がビッグ・スリーの穴を埋めせざるを得ないであろう.
それにしても,このような国際学会に米国ビッグ・スリーやヨーロッパ企業が支援し,会議に参加しているのに日本企業のエンニジアの顔が全く見えないのは毎度のことながら残念で致し方ない.