私の所属する機械工学科では、以前から比較的就職には恵まれてきたが、最近大変気になっていることがある。数年前N社が何と学科の一割に相当する学生を根こそぎ採用、去年C 社も同様な採用をした。両社とも自由応募制のため大学側は最終段階まで採用状況が把握できない。学科の同期が数十名も同じ会社に入社するなど異常である。この危機感から、人事部に問い合わせたところ自由応募のため大学ごとの採用数は人事でも蓋を開けるまでわからなかったとの返事であった。
一方、T社は大学による推薦制のため毎年十名強と抑制の効いた採用を続けているが、そのT社への就職希望者はいつもその5倍を超える応募者がある。毎年上位50社に70%の学生が集中する状況である。その結果、一般には知られていないが「知る人ぞ知る」企業には学生がなかなか目を向けない。「超一流企業に就職できて羨ましい」と外部からいわれるが、現在人気がピークの会社は彼らが部課長になる頃も超一流とは限らない。過去の砂糖・石炭・造船・鉄鋼業へと変遷した事例が示すように、ブランド大学の学生が大挙して就職し始めたら、その企業は頂点を迎えた証拠ともいわれる。先ほどのT社は数少ない自己抑制しながら学生を採用している企業であるが「我が社の製品に興味を抱くより、有名企業だから就職希望する学生が多くなった」と危機感を滲ませている。
学生に最も欠けているのは業界の歴史と現実的な情報である。マスコミや手近な情報をそのまま鵜呑みにしてしまう。そこで、私は日本を支えている「ものづくり会社」を大学に招いてパネルディスカッションを開催したり、多少の偏見は覚悟で「私が推奨する業界・企業30社」を学生に毎年広報している。同時に、家庭においてもブランド志向や子供を身近に置きたいとの母性的視点だけでなく、バランス感覚のある就職・人生設計を 父性的立場からアドヴァイスすることが極めて大切と考えている。