浅川研究室での教育の状態を紹介したい.筆者の学科では学部3年生から
研究室に配属される制度になっている.研究室ではゼミの他,3年生に
夏期実験も課している.いわば「ミニ卒論」である 2).夏期実験は6月の
終わりから7月のはじめに計画発表,機械実験室・工作室に通い7月末の
中間発表,そして短い盆休み後,9月末,軽井沢のセミナーハウスの最終
発表会で締めくくる.3年生の3ヶ月間の成果を叱咤激励するために卒業生
も駆けつけ,鋭い質問を投げかける.本人には厳しい夏であるが,その学習
効果は計り知れない.私から見ても大学生というよりも高校生のようなあど
けない顔が一皮むけ,徐々に逞しいエンジニアの面構えになって行くのが
わかる.卒業生のほとんどは「未見の我(自分の力を知らないのは他ならぬ
自分)」を体験した夏期実験を自分の原点として懐かしむ.
筆者の研究内容は生産・加工技術,機械構造用・機能性材料,塑性加工,
弾塑性力学,材料力学,数値シュミュレーションなど力学と材料学をベース
として,自動車,鉄道,航空宇宙,電子電気機器,産業機械を構成する重要
機械部材の力学的・材料学的に最適な生産・加工プロセスを究明することに
より,部材の高機能化,高強度化,高精度化を推進し,ほとんどのテーマが
企業や公的研究機関との共同あるいは受託研究となっている.卒・修論発表
後は企業や公的研究機関の研究者・エンジニアと発表・討論会で締めくくる.
会社幹部および数十人のベテラン技術者の前で発表するさいには厳しい質疑
応答が待ち受けている.これを終了して学生はやっと卒業を実感する.
50 年前の筆者の学科の就職状況は素材や部材・部品メーカーに 33%で
トップ,次いで機械・自動車・重工の順番であった.現在は素材や部材・
部品メーカーはわずか 7%で,トップは自動車 17%および電気電子 17%
である.「組み立て産業」「耐久消費財産業」に学生の人気が流れているが,
ものづくり産業の真髄は「素材・部材・部品」であり,日本の競争力が最も
強い分野と筆者は確信している.「材料」や「ものづくり」にそれほど関心
の無かった学生が,たまたま筆者の研究室に配属されたために,材料加工の
魅力の虜になり「素材・部材・部品」メーカに就職して行くケースが多い.
このことが,指導教員としての責任の重さを痛感する種でもあり,また
楽しみの種でもある.