最近の若いエンジニアと接してみて一抹の不安を感じることがある.
その一つに自分の考えを自ら発信することに躊躇していことがある.
特に上司や年配者との対話・ディベートが苦手である.根本原因は
小中高時代に目立つことを極端に避ける長年の子育て・教育の結果
であろう.以下このような若いエンジニアに筆者の体験から応援の
メッセージを送りたい.
エンジニアは,世界のトップを目指すことができる:カルマン渦や
圧延理論で先駆的研究をしたフォン・カルマンは「科学者は存在する
世界を発見し,技術者は全く存在していなかった世界を創り出す」
と名言を残している.物理や化学などの発見研究は才能と運が大きく
作用し極めて到達度が難しい.基礎科学の分野とは違い,産業界の
個々の特定の部門で専門に取り組んでいる技術者は,そこで真剣に
勉強し努力すれば,今まで無かった「もの」,「プロセス」を創り
出すことは決して難しくない.例えば,「圧延」の「棒線」における
「材質制御」まで焦点を絞るならその分野の専門家や世界のトップに
なることは可能である.工学系のエンジニアは理学系や文系に比較
して,こつこつ積み上げれば自己実現ができる恵まれた環境にあると
前向きに考えることである.
成功を導く鍵は思いと執着心:「思い と執着心」の強さにより成功か
失敗かが決まるといっても差し支えない.一日考えてダメなら一週間,
それでダメなら一ヶ月考える習慣を付ければ,その先に解決の道筋が
必ず見えてくる.要は「頭が割れるほど考えたか」にある.
たとえ時間的には切れ切れでも思考や想いに執着することは良い仕事を
するエンジニアの共通点である.好奇心や思いを持続させること,
「思いと執着心」 を失ったとき仕事は失敗し幕は閉じる.実験的事実
に基礎をおき,人のつくった権威や独断には従わない:これは1660年に
設立された英国王立協会(Royal Society,London)の標語である.
資料やレポートに他人の成果を取り込む場合は,自分自身でその内容を
十分に納得してからにしよう.上司の言葉よりも自分で採取した実験
事実を大切にしよう.若い時代は生意気ぐらいがちょうどいい.
筆者の大学生がプレゼンテーションで気軽に「CO2 による温暖化問題の
解決のために・・・」との枕詞を使うときは,「君が納得する CO2 に
よる温暖化を示すデータを示して欲しい!」と迫ることにしている.
なぜ今までの日本を支えてきた「省エネルギー」,「省資源」の指標
ではいけないのか? 地球温暖化,低炭素社会を声高に叫ぶさいは,
この王立協会の標語をよく噛みしめてほしいと思っている.