早稲田大学 名誉教授 浅川基男 asakawa@waseda.jp
就職シーズンになると学生が数十社の企業にエントリーし,訪問し,工場見学や人事・先輩との懇談に多くの時間を割いている.したがって授業はもちろん研究やゼミにかなりの支障を来している.
大部分の学生は就職に直面してから自分が何をしたいのか,どこに就職したいのかを迷いながら,手当たり次第に会社を訪問する.そのため採用効率はきわめて悪く,その無駄な時間と労力は日本の大きな損失といってよい.先ずやりたいことがあって,その手段として機械工学科を選んだ私には,その行動がなかなか理解できない.
その中でも一部の学生ではあるが就職先を一点に的を絞って就活している学生はシーズンになってもばたばたしない.その結果就職面談でも「芯のある学生」と見られ,きわめてスムースに志望先が決まって行く.その事例を紹介しよう.
A 君は航空機を設計製造したいため当学科を選び,1~2年次は「鳥人間サークル」に没頭したほどだ.3年の研究室選びでも航空機の材料・構造の研究室に志願し,卒・修論ともその研究に打ち込み,海外発表もこなすほどの立派な研究成果を残した.研究室で某航空機メーカーの工場見学する際も,自らその幹事役を買って出て,先方の人事と交渉し,日程や見学内容を取り決めた.就職シーズンになるとその企業一本に絞り,短期間で内定を決めた.
入学時に8割の学生が何のために今の学科を選んだのかを説明できていない.4年次の就職シーズンになっても7割の学生が「自分は何をしたいのか」を見失ったままである.大学に入る前に志しを形成するシステムが必要である.例えば企業でバリバリ働いている社会人が,小・中・高に赴いて,仕事への熱意・楽しさ・苦しさ・生き甲斐を語ってもらう機会を何とか作りたい.さもないと志しを欠いた社会人を乱造するだけで,日本の国力を一層低下させることになる.